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民間ロケット失敗 挑戦足踏み 挽回、スピード感が鍵

 スペースワンの初挑戦は失敗に終わった。右肩上がりの小型ロケット市場で存在感を示したかったが、足踏みを余儀なくされる。巻き返しを図れるのか。識者は「再挑戦までのスピード感が鍵を握る」と指摘。同社幹部は「諦めない」と次を見据えた。
小型ロケット「カイロス」1号機の爆発を受け記者会見するスペースワンの豊田正和社長(中央)ら=13日午後、和歌山県那智勝浦町カイロス1号機打ち上げ失敗のイメージ
 「いつでも」「どの軌道でも」衛星を届ける「宇宙宅配便」-。スペースワンは専用の発射場と機体を武器に、2030年代に年間30機の打ち上げを目指すとしてきた。
 「まずは原因究明だが、計画を変えるつもりは全くない」。13日に和歌山県那智勝浦町のホテルで開かれた記者会見。豊田正和社長は強調したが、同社は次回打ち上げの見通しを明かさなかった。
 1号機には日本の固体燃料ロケット開発の中核を担ってきたIHIエアロスペースが培った技術をつぎ込んだ。打ち上げから約8分で3段目まで分離し、約50分後には衛星分離に成功する予定だったが、発射の約5秒後に爆発。最初から実用衛星を搭載することで信頼感をアピールするはずが、新型開発の難しさを露呈する結果となった。
 宇宙ビジネスに詳しい三菱総合研究所の内田敦主席研究員は「爆発までの5秒間のデータでどこまで原因を究明できるかだ」と指摘。「対応策の公表の仕方によっては市場からの信頼を高められる可能性もある」と注目した。
 日本のロケット開発はこれまで政府と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が主導してきた。だが世界では既に民間企業がけん引する。00年代以降、米国で起業家イーロン・マスク氏のスペースXや、アマゾン・コム創業者ジェフ・ベゾス氏が設立したブルーオリジンなど新興企業が台頭。小型ロケットでは米ロケットラボが首位を走る。
 米金融大手モルガン・スタンレーは宇宙産業の市場規模が、17年の約3500億ドルから40年には約3倍の1兆ドル(約150兆円)超になると予想。日本政府も成長分野とにらみ、企業支援に力を入れている。
 総額1兆円規模の「宇宙戦略基金」を新設し、資金を民間企業に供給して技術開発を進める仕組みを整備。国内の市場規模を30年代早期には20年の倍となる8兆円にするとの目標も掲げる。
 スペースワンの成功により日本でも民間参入が加速されると期待されたが、先行きは見通せない。国産の大型ロケットH3の1号機が失敗した際には2号機打ち上げまでに約1年を要した。
 当初打ち上げを予定した9日は警戒海域に船舶が残って延期になり、民間発射場を運営する上で課題も明らかに。「発射場整備にロケット開発を経て、打ち上げまでこぎ着けたことは評価したい」と内田氏。小型ロケット市場は2番手争いが正念場といい、民間企業ならではの機動力でどれだけ早く次の打ち上げに臨めるかが行く末を決めるという。「ロケットラボ以外で飛び抜けた企業はまだない。挽回のチャンスはある」

 Q&A
 宇宙事業会社スペースワンが、和歌山県串本町にある国内初の民間ロケット発射場「スペースポート紀伊」からロケット「カイロス」1号機を打ち上げましたが爆発、失敗しました。
 Q スペースワンとはどんな会社ですか。
 A 小型ロケットで衛星を打ち上げることを目指し、衛星事業を手がけるキヤノン電子や清水建設など計4社の出資で2018年に発足しました。自社の発射場を持っており、民間の発射場は日本で初めてとなります。
 Q なぜ発射場に串本町を選んだの。
 A 発射場は、打ち上げに必要なエネルギーや安全性の観点から南側と東側が開けていることが良いとされます。串本町は本州最南端で南方と東方が海に開け、周囲に建物もありません。本州内の工場からアクセスが良く、機材の運搬がしやすいことなどから19年に選ばれました。
 Q カイロスとは。
 A 全長18メートル、重さは23トンの3段式ロケットです。固体燃料を用い、国のイプシロンロケットよりも小さいサイズです。スペースワンは、契約から打ち上げまでの時間を1年以内とし、年間20回の打ち上げ頻度を目指すとしています。部品点数が少なく低コストという特徴もあります。
 Q 名の由来は。
 A ギリシャ神話に登場する時間の神「カイロス」の名前に由来します。スペースワンが時間を味方につけ、ロケット市場を制しようとする姿勢を示しています。

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