静岡・泉ケ谷で地域芸術祭 現代アートがつなぐ「境界」
静岡市駿河区の旧東海道丸子宿の一角、泉ケ谷地域で開催中の地域芸術祭「静岡アートビジョン」(同実行委員会主催)は、現代アート作品を通して今と昔、街と里山、自然と人間の営みなどさまざまな境界を緩やかにつなぎ、新たな魅力を提示している。
同地域の入り口には、伝統工芸体験施設「駿府の工房 匠宿」があり、古道沿いに寺社や、養蜂、酪農など自然と共生する住民の生活エリアが続く。監修したNPO法人クロスメディアしまだ(島田市)の児玉絵美事務局長は「住民と匠宿、職人たちとのつながりもここの魅力。潜在する地域像を掘り起こす視点が、現代アートの予測を超えた見方と重なった」と説明する。
大井川鉄道の無人駅を舞台に芸術祭を企画してきたノウハウを生かし、出展作家を選定。匠宿を基点として千手観音堂まで約450メートルの道沿いに、県内外の現代アーティスト6組の作品を展示した。
マレーシア出身のタン・ルイさん(袋井市)は、カラフルな洗濯ばさみ1万個以上を使う立体作品を、匠宿内の水辺に設置した。同地域の空、山、家を借景に、海の底に生きるサンゴ礁を表し、タンさんは「見慣れた生活用品が集合体になったとき、未知の生き物に姿を変える」と新たな視点を提案。巣に見立てたツタの中で照明が点滅する作品「月の卵たち」を制作した夏池篤さん(島田市)は、「吐月峰柴屋寺の言われから、この里で生まれた光のかけらが月になるイメージ」と語る。
人以外の存在に想像を膨らませること、一見相反する物事の「境界」を確認すること。「それは分断ではなく、接続する手法。地域の魅力へつながる入り口として提案したい」と児玉さんは強調する。
(教育文化部・岡本妙)
「静岡アートビジョン」は12月7日まで。同日は匠宿で、出展作家らによるトークセッションなどを行う。入場無料、要予約。同ウェブサイトから申し込む。