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テーマ : 浜松市

賃上げの春、中小奮闘 大手大幅ベアの一方…止まらぬコスト高 静岡県内、実施企業も人材流出に危機感

 賃上げ機運がさらに高まる中でヤマ場を迎えた今春闘は、県内でも一部大手企業が大幅なベースアップ(ベア)や一時金の上乗せ方針を打ち出している。一方で、原材料・エネルギー高が収益を圧迫する中小企業の経営環境は依然厳しく、労務費の増加は大きな負担としてのしかかる。利益をいかに確保し、社員の待遇改善につなげるか。経営者の奮闘は続く。

世界最高峰の能力を持つ高精度3次元測定機=2月下旬、浜松市中央区の浅沼技研
世界最高峰の能力を持つ高精度3次元測定機=2月下旬、浜松市中央区の浅沼技研


 輸送機器部品の外装ケースを試作する浅沼技研(浜松市中央区)は4年前、発注元から渡される設計の図面と試作品の誤差を測る高精度3次元測定機を導入した。投資費用は2億1500万円。誤差の測定能力は世界最高峰の0・3ミクロン(1万分の3ミリ)と、一般的な測定機と比較して10倍程度高い。「いかに加工精度を保証するか。それが社の信頼となり、利益となる」。浅沼祐一郎社長(36)はこう言葉に力を込める。
 大量生産の製造業とは異なり、試作品は多品種小ロット。機械による省力化、省人化は難しく、社員の数と能力が品質を大きく左右する。原材料費の高騰が続く苦しい経営環境の中で同社は今年、社員一律での賃上げを決めた。浅沼社長は「社員を大切にすることが結局は会社のためになる。設備投資もしながら収益を確保し、社員に還元する仕組みを整えたい」と語る。
 静岡市清水区の製造業者も今春、全従業員15人の賃上げを行う。昨期の決算は業績がわずかに改善し、「感謝の気持ちを込めて」と経営者の男性は語る。ただ、長期的な受注量の減少傾向は変わらない。世間ではデフレ脱却に向けた持続的な賃上げの機運が高まるが、「持続的とはいつまでか。給料を上げられなくなれば、社員が辞めてしまうかもしれない」との危機感も抱く。
 株価上昇に沸く大企業とは対照的に、中小企業の懐事情は苦しい。静清信用金庫が中小企業1417社を対象に実施したアンケートでは、半年以内の賃上げを「実施予定(済み)」との回答はわずか8%。県商工会連合会の窪田賢一専務理事は「本来は利益を確保してから給料を上げたいが、現実は人材流出を避けるための防衛的な賃上げが目立つ。いつまで続けられるか、厳しい中小企業も多い」と語る。
 (経済部・金野真仁)

 鍵握る価格転嫁 静岡県調査 「全くできない」22%
 中小企業の利益確保の鍵は、企業間取引におけるコスト上昇分の価格転嫁が握っている。県内では2023年6月、県や経済団体、国の出先機関が「パートナーシップ構築宣言」を採択し、原材料費や人件費の上昇を踏まえた適正価格での取引を推進する。賛同企業は24年1月末で1691社に上り、採択時から約1.5倍に増えた。
 県の調査によると、コスト高騰に対し7割以上を価格転嫁できた企業は30.1%だった一方、22.7%が「全くできていない」と回答した。理由は「他社との価格競争が激しい」が半数に上ったほか、細かな原価など「価格交渉に必要なデータ収集が困難」という企業も見られた。
 県の担当者は「一定の進展はあるが課題も多い」とし、価格転嫁に関する相談窓口を案内するなどして適正取引を後押しする。

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