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テーマ : 浜松市

浜松新球場、多目的ドームか屋外型か 基本計画策定へ 静岡県知事辞意で先行き不透明【ニュースを追う】

 浜松市中央区の遠州灘海浜公園篠原地区の新野球場整備を巡り、県は6月にも、国の事業認可の前提となる基本計画を策定する。最短で2032年度供用開始というスケジュールも明らかになり、曲折をたどった大型プロジェクトは建設に向けて動き出す見通しとなった。ただ、焦点となっている規模と構造の絞り込みは先送りされ、「2024年問題」に伴う人手不足や建築資材の高騰など課題も山積する。川勝平太知事の突然の辞意表明もあり、肝いり事業の行方は視界不良だ。 photo03 県が野球場の整備を予定する遠州灘海浜公園篠原地区周辺(本社ヘリ「ジェリコ1号」から、写真部・宮崎隆男)
 「雪の降らない静岡県は青空の下での野球場がいい。あくまで県営球場であり、浜松市営球場ではない」
 3月4日の県議会2月定例会一般質問。最大会派自民改革会議の鈴木利幸氏(浜松市中央区)は県民にとって使い勝手が良い屋外球場を求め、「多目的ドーム型スタジアム」の建設を要望する地元の期成同盟会をけん制した。

■隔たり
 定例会のたびに議論の行方が注目されてきた新野球場。2月定例会では、県が野球場の規模と構造を①1万3千人の屋外型②2万2千人の屋外型③2万2千人の多目的ドーム型-の3案に絞り込んで議会側に提示した。 photo03 新野球場3案の規模・構造
 第2会派ふじのくに県民クラブの田内浩之氏(湖西市)は地元の要望などを理由に「多目的ドーム型があるべき姿」と主張。これに対し、自民の中谷多加二氏(浜松市中央区)は政令市は対等だとして「静岡市の草薙球場と同等のものを」と訴え、意見の隔たりが鮮明になった。
 県は3案を併記したまま6月ごろに基本計画を取りまとめる方針だ。関係者は「1案に決まるのを待っていたら、いつまでも計画をつくれない。次のステップに進む必要があった」と明かす。公園用地は全体の3分の2に当たる約24ヘクタールが未取得。地権者が多く用地買収には時間を要するとみて、その間に県議会で議論が進展することを期待する。

 ■さや当て
 野球場を巡っては、自民会派内にも温度差が大きく、意見集約には至っていない。県中部、東部の県議を中心に建設費がかさむドーム型への反対論がくすぶる。草薙球場(2万2千人収容)、愛鷹球場(沼津市、1万3千人収容)とのバランスに配慮すべきとの意見も根強い。ベテランは「物価高騰が直撃する中、県民の理解を得られるのか」と疑問を投げかける。
 ふじのくに会派はドーム型を支持する立場とされる。だが2月定例会後に大石哲司氏(浜松市中央区)が会派を離脱。「政策面で一致できない部分があった」と説明し、その一つが新野球場整備だったという。
 費用負担を巡り、さや当ても始まった。県当局がドーム型の場合に浜松市に費用負担を求める方針を示したことを受け、中野祐介市長は「建設は県が責任を持ってやってもらうのが筋」と反論した。県は「市と役割分担について協議していく」と説明するが、事業を進める上で新たな火種にもなりかねない。

 ■投げ出し
 ドーム型の建設に前向きな姿勢を示してきた川勝知事。2月26日の定例記者会見では「私の任期とは関係なく、スピード感を持って取りまとめたい」と述べたが、辞意表明により事業の先行きには不透明感が漂う。ある県議は「肝いり事業を投げ出した」と批判し、県当局にも困惑が広がる。
 新野球場整備は次期知事選でも争点の一つに浮上するとみられ、事業そのものの是非を含めて論戦が繰り広げられる可能性がある。
記者の目 トップ交代、立ち止まる契機に
 県内では浜松市の新野球場以外にも、アリーナやサッカースタジアムなどスポーツ関連施設の整備構想がめじろ押しだ。施設ができればにぎわいが生まれ、地域活性化や経済効果に期待がかかる。一方で、建設コストは高く、採算が取れるかどうかも見通せない。「ハコモノ」に厳しい目が向けられる中、行政は施設がなぜ必要なのかを明確に説明しなければならない。
 ドーム型に前向きな発言を繰り返してきた川勝平太知事の「退場」により、賛否が渦巻く新野球場構想の行方は新たな知事に委ねられることになった。幸か不幸か、立ち止まって議論する時間ができたとも言える。
 県の財政状況は厳しい。野球場だけで最大370億円の事業費も、建設資材の高騰や深刻化する人手不足の影響でさらに膨らむのは明白だ。県民が利用しづらく、将来にツケを残す。そんな施設は避けなければならない。知事選候補者だけでなく、県議一人一人も新野球場へのスタンスを明確にしてほしい。
需要旺盛な西部に県営球場なく アカウミガメ影響懸念も
 新野球場は浜松市の要望を踏まえ、2014年に川勝平太知事が建設の意向を示した。県営球場は沼津市の愛鷹球場と静岡市の草薙球場の二つで、県西部には設置されていない。浜松市の市営浜松球場は老朽化が進む。県は「県西部の需要に対応できる野球場が不足している」と指摘する。
 議論は曲折をたどってきた。16年の県議会では関連予算案が減額修正され、コロナ禍では税収落ち込みを理由に計画の見直し対象となった。近くで産卵するアカウミガメに影響を及ぼすとして、ナイター照明のある屋外型球場は検討対象から除外された。
 22年には浜松市と市議会、浜松商工会議所、市自治会連合会でつくる建設促進期成同盟会が発足。野球以外にもさまざまなイベントを開催できる2万2千人規模の「多目的ドーム型スタジアム」を要望する。一方、市民団体などは建設コストや利用料金が高額になり、アカウミガメの生態を守れないとしてドーム型に反対の立場だ。整備予定地は津波や洪水による浸水や液状化のリスクが指摘される。新野球場はかつて、津波避難場所としての防災機能に注目が集まったが、現在はほとんど議論になっていない。
(政治部・森田憲吾)

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