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浜岡原発1、2号機 原子炉領域解体着手へ 商業炉としては国内初【ニュースを追う】  

 中部電力は2024年度、廃止措置中の浜岡原発1、2号機(御前崎市佐倉)で、商業炉としては国内初となる原子炉領域の解体に着手する。炉心の解体撤去は最難関とされ、中電は廃炉のトップランナーとして安全かつ効率的な作業を目指している。一方、廃炉で出た低レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定や普通の産業廃棄物と同じように資源再利用できる「クリアランス物」の受け入れは思うように進んでいない。36年度の廃止措置完了に向け、廃棄物処理に対する自治体や住民の理解協力をどう得るかも鍵になる。
 (御前崎支局・市川幹人)
中部電力が国内初となる原子炉領域の解体に着手する浜岡原発1、2号機(手前)=2022年5月、御前崎市佐倉(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
廃止措置の工程
高い放射線量 遠隔操作で作業
 23年12月上旬、浜岡原発1、2号機それぞれのタービン建屋内に騒音が響いていた。放射線防護服を着た作業員が金属機器や配管などを切断し、機器を細断する大型バンドソーも稼働。床には解体した鉄片を収納した容器が並ぶ。現場の作業員は協力会社を含め最大100人程度。24年度から着手する原子炉領域の解体を控え、現場は活気づいている。
 浜岡1、2号機の廃止措置は09年度から始まった。建屋内の燃料を全て運び出した後、設備や配管を除染し、23年度までに排気筒やタービンなど原子炉領域周辺設備の解体撤去を進めてきた。中電廃止措置部長の堀正義さんは「作業は被ばく防止管理を含め、安全が第一。協力会社と連携を密にしていて、作業は順調だ」と胸を張る。
 ただ、次に待ち受ける原子炉領域の解体はこれまでの工程とは「別次元」という。撤去するのは原発の“心臓部”である原子炉だ。除染を行い、格納容器内の雰囲気放射線量は大幅に低下したが、圧力容器内の一部の設備は中性子等の照射を受けて放射性物質に変化し、人が近づけない状態になっている。そのため、中電は海外事例を参考に切断装置を用いて遠隔操作で炉内構造物を切る手法を採用する。放射線量の低減や粉じんの飛散防止のため圧力容器に水をためて水中で構造物を切断し、専用の容器への収納も全て遠隔操作で行うという。
 1、2号機はいずれも沸騰水型軽水炉(BWR)だが、設計仕様が異なるため、それぞれ切断装置の仕様もカスタマイズした。過去に国内で廃止措置が完了したのは日本原子力研究開発機構の小型試験炉のみ。堀さんは「原発はそもそも解体しやすいように設計されていない。試行錯誤しながらの作業もある」と難しさを語る。
原子炉領域周辺設備の解体撤去が進む廃炉現場。金属機器を切断する音が響く=12月上旬、御前崎市佐倉の浜岡原発2号機タービン建屋
 一方、原子炉領域の解体では低レベル放射性廃棄物のうち、放射能レベルが比較的高い炉心隔壁(シュラウド)などL1が約100トン、原子炉圧力容器などL2が約400トン出る。廃炉で出た同廃棄物は事業者に処分責任があり、中電を含めた電力業界は埋設処分候補地を検討しているが未定。今後、処分地選定が滞れば廃棄物が建屋内に残され、廃炉作業の行き詰まりが懸念されている。
 国内の商業炉57基のうち、既に計17基が営業運転を終了した。今後、廃炉原発はさらに増える見込みで、浜岡1、2号機の廃止措置がモデルケースになる。堀さんは「役目を終えた原発を安全に解体することも一つの使命。建設から廃炉まで原子力発電施設のライフサイクルをしっかり確立したい」と述べた。
 「クリアランス物」再利用へビジネス化が鍵
 中部電力は浜岡原発1、2号機の廃炉で出る解体撤去物約45万トンのうち、放射能汚染レベルが極めて低い金属など「クリアランス物」の再利用を進めている。しかし、風評被害などを懸念し、受け入れる企業が少ないのが実情だ。専門家は「廃棄物処理をビジネスとして捉えていく必要がある」と指摘する。
 国は原子炉等規制法で放射性廃棄物と通常の廃棄物を区分する放射線量の基準値(年間10マイクロシーベルト)を「クリアランスレベル」とし、基準値以下の場合は人体に影響がないことから再利用品や一般廃棄物として処理できる制度を設けている。中電は2022年度からクリアランス物を鋳造メーカーに依頼してグレーチング(側溝のふた)に加工し、浜岡原発や中電グループ会社の敷地内で利用している。全国にはベンチや照明灯などに加工する事例もある。現在、クリアランス製品は電力業界内での使用またはPR用展示に限定され市場流通はできないが、中電幹部は「利用実績を重ねて社会認知度の向上を図り、普及を目指したい」と語る。
 風評懸念 受け入れ企業わずか
 しかし、静岡県内でクリアランス物を受け入れている事業者はわずか1社にとどまる。ある企業は数年前、中電からクリアランス物の製品加工を頼まれたが「原発から出た廃棄物を扱うだけで会社イメージが悪くなる恐れがあるため断った」と打ち明ける。中電担当者も「このままでは処理待ちの解体物がたまってしまう」と頭を抱える。
 一方、原発15基が立地する福井県では20年度から原子力などさまざまなエネルギーを活用したまちづくりを推進する「嶺南Eコースト計画」が動き出した。四つの基本戦略の中で、デコミッショニング(廃炉)ビジネスの育成を掲げ、産学官が連携してクリアランス物を一手に引き受ける集中処理施設建設の構想を描く。敦賀商工会議所(敦賀市)によると、クリアランス物について理解を深める勉強会などを定期的に開催し、現在は10社ほどが事業参入に興味を示しているという。原発の廃止措置は長期にわたるため所長の伊藤祐一さんは「地域に根付いた息の長い事業になる」と期待感を表す。ただ、「ほかの産業廃棄物処理と比べて物量は多くない。採算性をどう確保するか最大の課題」と指摘する。
 放射性廃棄物処理に詳しい東京大大学院工学系研究科の岡本孝司教授(原子力専攻)は「クリアランス物を自由に加工するのではなく、製品や用途を限定した上で再利用や処分を検討していくべきだ。住民への理解普及に努めながら規制を適正化し、ビジネス参入しやすい環境づくりが求められる」と指摘した。

 <メモ>1号機は1976年3月、2号機は78年11月にそれぞれ営業運転を開始した。2005年に自主的な耐震裕度向上工事の実施を公表したが、相当な費用と期間を要することから工事後の運転再開は経済性に乏しいと判断。08年に1、2号機を運転終了し、替わりに6号機を建設する「リプレース計画」を発表した。廃止措置計画は大きく4段階に分けられる。09年度から第1段階(解体工事準備着手)を始め、15年度から第2段階(原子炉領域周辺設備解体撤去)に着手した。24年度に第3段階(原炉領域解体撤去)に入り、30年度からは建屋コンクリートなどを壊す第4段階(建屋等解体撤去)を行い、最終的には更地にする。
 

低レベル放射性廃棄物
放射能レベルの高い順に「L1」「L2」「L3」に区分される。処分方法は、L1は70メートル以深に埋設する中深度処分、L2は浅い地面の中にコンクリートの囲いなどの人工構造物を設けて埋設するピット処分、L3は地面の浅いところに埋設するトレンチ処分がそれぞれ検討されている。原発運転に伴って出た低レベル放射性廃棄物は青森県六ケ所村の日本原燃低レベル放射性廃棄物埋設センターで処分している。

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