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テーマ : 浜松市

AI搭載でさらなる進化 「歌声の楽器」軸ぶれず【音楽革新 ボカロ20年㊦】

 2019年12月31日の紅白歌合戦。昭和の歌姫、故美空ひばりさんの懐かしい“歌声”がテレビからしっとり流れてきた。ここに使われたのが、ヤマハが開発したAI(人工知能)を用いた当時最新の音声合成技術「ボーカロイド(ボカロ)AI」。過去の音源などから、ひばりさんの歌声や歌い方の特徴を再現。ステージによみがえらせた。

ボーカロイドの企画・開発などを担当するヤマハ電子楽器事業部の吉田雅史(右)と市川大=2月中旬、浜松市中央区の同社本社
ボーカロイドの企画・開発などを担当するヤマハ電子楽器事業部の吉田雅史(右)と市川大=2月中旬、浜松市中央区の同社本社

 ボカロは時代のニーズを取り込み、進化を続ける。22年10月発売の最新作「ボカロ6」はAI技術を用い、実在の歌手の音色や歌いまわしなどの特徴を学習したデータを基に、入力されたメロディーと歌詞に応じた歌い方を推定して歌声を合成する。今まで以上に音程や音色の変化、発音が滑らかになった歌声を用いた音楽制作を可能にした。
 「時代変化の合致と、少しずつの(改良の)積み重ね」。現在、ボカロ開発を率いる電子楽器事業部の吉田雅史(46)はボカロの歴史をこう振り返る。03年のボカロ発表前、大学卒業後に音楽家や指導者らを育成するヤマハ音楽院に通っていた時代からボカロの開発に関わった。開発者の剣持秀紀(57)=現研究開発統括部=のアシスタントとして、当時レコーディング研究に没頭していた吉田が招かれ、08年ヤマハに入社。ボカロ4の企画開発をもって退いた剣持の後を引き継いだ。
 ボカロAIの開発で、ボカロの方向性を検討する社内会議があった。歌声合成は劇的な進化を遂げたが、ボカロ6をAIだけの音源エンジンに刷新するか、ボカロ5までのエンジンも残すかで意見が対立した。
 電子楽器事業部でボカロのマーケティングを担当する市川大(27)が「楽器としてのボーカロイドの表現力をいかに確保するか。そこに軸を持って進化できるかということを社内で考えた。ギターやピアノと同じ立ち位置で、ボカロは歌声の楽器」と語るように、ベースを残しつつ、最新のAI技術を組み合わせた。
 「6」の発売から約1年半がたち、ユーザーたちの「7」に対する期待は高まるばかり。吉田は「公開できる段階ではないが、楽器として正当に進化している形をいつかお見せしたい」と語った。
 (敬称略)

 <メモ>ボカロは2004年の発売から着実に進化してきた。07年1月発売の2は「吐く息」の再現性を高めた。11年6月発売の3もこの路線を継承し、音源のつなぎ目が分からないレベルに達した。それまでウィンドウズだけの対応だったが、14年11月発売の4からマッキントッシュ(マック)にも対応。18年7月の5はパソコン上での制作作業をしやすくする機能を追加した。

 (浜松総局・大山雄一郎)

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