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テーマ : 裁判しずおか

社説(1月26日)京アニ死刑判決 惨劇の検証を続けねば

 36人が亡くなり、32人が重軽傷を負った2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件の裁判員裁判で、殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)に対し、京都地裁は死刑判決を言い渡した。
 結果は重大で身勝手な犯行というほかはない。被告の責任は問われるべきだが、それだけに帰結させるのではなく、同様の加害者や被害者を生まないために、この惨劇を今後も検証していかなければならない。
 公判で青葉被告は起訴内容を認めた上で、父親から度重なる虐待を受けたことなどに触れながら、京アニの小説コンクールに落選して、小説のアイデアを盗用されたことが動機だと説明した。落選や盗用は「闇の人物」の意向とするなど、妄想をうかがわせる主張もした。
 この妄想が刑事責任能力にどう影響したかが最大の焦点で、検察側は「妄想の影響は限定的だ」とした上で、強固な殺意に基づく計画的な犯行などとして死刑を求刑した。弁護側は重度の妄想性障害により「心神喪失か耗弱状態だった」として無罪か刑を軽くすべきと訴えたが、判決では退けられた。
 初公判の検察側、弁護側の冒頭陳述によると、青葉被告は20代にコンビニ勤務をしていたが人間関係がうまくいかずに辞め、困窮の中で窃盗や暴行事件を起こした。34歳の時にはコンビニ強盗で逮捕されて服役。統合失調症と診断され、出所後は生活保護や訪問介護サービスを受けながら精神科に通院し、完成させた作品を京アニのコンクールに応募したが落選した。
 こうした中で、京アニのせいで人生がうまくいかないという「筋違いの復讐[ふくしゅう]」を決意したと検察側は指摘した。公判で青葉被告は、落選した際や創作のアイデア帳を燃やした時期の心情を「つっかえ棒がなくなり、やけになる。よからぬ事件を起こす方向に向かう」と述べた。
 どこかで思いとどまらせることはできなかったのか。青葉被告は挫折感の中で、なぜまだ人生をやり直せると思えなかったのか。事件の背景には孤独や孤立、閉塞[へいそく]感もうかがえる。行政などの対応の検証を含め、同じような事件が二度と起きないような世の中にするには何が必要か、これからも社会全体が考え続けなければならない。
 この放火殺人事件では、菊川市出身の大村勇貴さん=当時(23)=も犠牲になった。公判では、複数の遺族らが法廷で家族を突然失ったやるせなさや、被告への怒りなどさまざまな思いを吐露した。遺族や被害者の喪失感は決して消えることはない。これからもその心情を受け止め、支えていく必要がある。

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