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テーマ : 裁判しずおか

「僕には当たり前のこと」 性別変更の手術要件「違憲」、申立人の鈴木さん(浜松市)会見で喜び

 「僕にとって、当たり前のこと」。性同一性障害と診断された人が戸籍上の性別を変えるには生殖能力をなくす手術が必要、とした法律規定は憲法違反とした静岡家裁浜松支部の決定を受け、申立人の鈴木げんさん(48)=浜松市天竜区=は13日、同市中区で記者会見し、「男として生きてきた僕の戸籍が男になっただけ」と心境を語った。
戸籍上の性別変更が認められ、「僕にとっては当たり前のこと」と話す鈴木げんさん(右)。パートナーの国井良子さんも同席した=13日午後、浜松市中区
 幼少期から女性として扱われることに違和感があり、40歳で性同一性障害と診断された鈴木さん。今回の決定について「弁護団をはじめ、さまざまな仲間たちの努力のおかげ」と喜び、周囲への感謝の言葉を述べた。
 家裁決定は、性別変更の審判が可能になる五つの要件を定めた「性同一性障害特例法」のうち、生殖能力の喪失が求められ、事実上手術が必要となる要件について「意思に反して身体への重い負担がある手術を受けざるを得ないのは、必要性や合理性を欠く」との判断を示した。鈴木さんは「自分の体のことは自分で決めたい。特例法が改正され、多様な性が受け入れられる豊かな社会になってほしい」と訴えた。

 鈴木さんは2020年、同市の国井良子さん(51)とパートナーシップを宣誓し、事実婚のカップルとして公認された。会見に同席した国井さんは「これまでの生活が特に変わるわけではない」としつつも、「男になった夫が隣にいるんだなとの実感が湧いてきた」と笑みを浮かべた。
 国井さんとの法律婚については、鈴木さんは「全国に同性婚の訴訟をしている人が多くいる。みんなと一緒に幸せになりたい」として、結果が出るまで待つ方針を示した。
戸籍上の性別変更が認められ、「僕にとっては当たり前のこと」と話す鈴木げんさん=13日午後、浜松市中区
 弁護団の堀江哲史弁護士は家裁決定について「かなり丁寧に検討して結論を導いている。『満額回答』と言える」と満足げに語った。鈴木さんとは別の人が申し立てた家事審判で、最高裁大法廷が近く憲法判断を示す見通しであることに触れ、「筋が通った今回の家裁決定と違う判断を出すのは難しいのではないか」との認識を示した。
 (浜松総局・岩下勝哉)

静岡県内当事者から喜びの声、法整備も期待

 生殖能力をなくす手術をせずに戸籍上の性別変更を認めた静岡家裁浜松支部の決定を受け、県内の当事者からは「夢にも思っていなかった」という喜びの声とともに、さらに踏み込んだ当事者に寄り添った法整備に期待する声が上がった。
 女性として生まれ、性自認は男性の安池中也さん(53)‖静岡市駿河区‖は「手術をしなくても性別変更が認められることは心身の負担軽減につながる」と歓迎した。性別適合手術の選択も考えたが、体の負担などの事情が重くのしかかっていたという。「まさか日本でこのような判断が出るとは夢にも思っていなかった」と語った。
 戸籍上は男性だが、会社で女性として働く藤森咲紅さん(30)=浜松市北区=は「人権の問題として捉え、当事者の希望に寄り添う法律の整備を」と性別変更の要件を定めた「性同一性障害特例法」の改正に期待する。
 性的少数者の支援団体「QUEBEC(キュベック)」の久米泰代代表(43)=同市南区=は「今回の判断は性的マイノリティーの当事者にとって励み」と強調。静岡大の根本猛名誉教授(憲法学)は、最高裁が近く示す見通しの憲法判断に向けて「前向きなイメージや兆しになる」と評価した。
 (浜松総局・池田悠太郎)

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