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【第4章】学びの保障㊥ 広がる遠隔授業 治療と並走 友との絆も【青春を生きて 歩生が夢見た卒業】

 1月上旬、静岡県庁で病気療養中の生徒への学習支援を検討するワーキンググループ(WG)が開かれた。小児がん拠点病院の県立こども病院(静岡市葵区)や浜松医科大付属病院(浜松市中央区)、県教委のメンバーが集まり、学習支援に関する実績の情報交換や課題の話し合いが行われた。

病気療養中の生徒への学習支援に関する実績や課題が話し合われたワーキンググループ=1月上旬、県庁
病気療養中の生徒への学習支援に関する実績や課題が話し合われたワーキンググループ=1月上旬、県庁

 県立高では、2022年度に14人、23年度には16人が出席扱いされるようになった遠隔授業を利用し、利用件数は全国最多レベルとみられる―。県教委の担当者がそう報告すると、出席者は着実な広がりを実感するようにうなずいた。
 遠隔授業は、さまざまな効果をもたらしている。県中部の県立高では22年度、1年生の生徒1人が利用した。同校によると、生徒は入学したばかりで友達もまだあまりいなかったが、休み時間に中学時代からの友人と画面越しに談笑し、ほかの友達にも輪が広がっていったという。「学びを止めることなく進められ、孤独感も癒やされたようだった」(同校の担当者)。
 県西部の県立高では23年度、3年生の生徒がほぼ毎日、遠隔授業を受けた。無事に単位を取得し、卒業を果たした。中学3年で病気を発症し入院が必要になったものの、病院に併設された院内学級には転籍せず、中学校に在籍しながら遠隔で授業を受け、受験、高校進学した生徒もいた。
 WGメンバーで、闘病しながら県立磐田北高に通った寺田歩生[あゆみ]さんの治療に当たった浜松医科大付属病院の坂口公祥医師(45)は「泣く泣く留年や学校を去った生徒がたくさんいた」と遠隔授業導入前の様子を明かす。学校側は生徒に治療への専念を促す一方、病院側は進級の仕組みに明るくない。結果として学年末に出席日数不足が判明する生徒が後を絶たなかったという。
 県内の私立高1年の時に急性リンパ性白血病が再発した女性(20)はその一人。休学、留年を経て卒業し、現在は定期的に通院しながら、愛知県内の大学に通う。「今ではいい経験になったと思えるが、当時はつらい思いもあった」と語る。
 この女性をはじめ多くの若いがん患者に向き合ってきた県立こども病院の看護師加藤由香さんは「学校に行けなくても自分も仲間の一人であるという関係性を感じられることが大事。治療と社会性、教育を並走させることができるのが遠隔授業の最大のメリット」と意義を強調する。

 メモ 県立磐田北高が、2年生に進級した寺田歩生さんへの遠隔授業を出席扱いする運用を始めた2021年度、静岡市内の県立高2年だった望月奈々さん(20)も遠隔で授業を受けた。病気で県立こども病院に入院していた。当時は遠隔授業の出席扱いに関する県教委の指針がなく、望月さんは単位が認定されない“試行”だった。それでも望月さんは「入院中は1日が長く、学校の様子が気になった。授業を受けられるだけでありがたかったし、治療を受ける自分の活力にもなった」と振り返る。課題提出などもこなし無事卒業、現在は同市内の会社で元気に働いている。

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