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【時評】トランプ氏の危機感 支持率僅差も資金力の差(海野素央/明治大教授)

 

海野素央氏
海野素央氏

 米大統領選挙はバイデン氏対トランプ氏の再対決が確定した。政治サイト、リアル・クリア・ポリティクスの各種世論調査結果の平均支持率(2月21日~3月13日)は、トランプ氏がバイデン氏を1.7ポイントの僅差でリードしている。しかし、その平均値にはトランプ氏に甘い数字を出すいわゆる「トランプ応援団」の世論調査会社の結果が含まれている点に留意すべきだ。
 支持率が僅差であっても、資金面ではバイデン氏が圧倒的に優勢である。米第4四半期(2023年10~12月)においてバイデン氏と民主党全国委員会は9700万ドル(約145億円)を集めたのに対して、トランプ氏は1900万ドル(約28億円)。トランプ氏は23年に5560万ドル(約83億円)を弁護士費用として支払っている。
 バイデン氏は順調に資金を調達している。米紙ワシントン・ポスト(電子版)によれば、2月に約47万人から5300万ドル(約79億円)を集めた。加えて、3月7日の一般教書演説後24時間以内に1000万ドル(約15億円)の献金があった。豊富な資金力を使って激戦州を中心に約100カ所の事務所を開設する予定だ。さらに広告に資金を投入し、政敵を弱体化する情報を収集したり、セレブとの関係構築を図ったりするスタッフも募集している。セレブ担当のミッションは、イスラエル軍のガザ侵攻で離れた若者の支持を取り戻すために、歌姫テイラー・スウィフト氏から支持を獲得することかもしれない。
 一方、トランプ氏は共和党全国委員会の人事に介入し、陣営の選挙資金集めに非協力的であったマクダニエル前委員長を追い出し、新委員長に支持者のワトリー氏を推すだけでなく、次男エリック氏の妻ララ氏と選対幹部のラチビタ氏までも党本部に送り込んだ。その狙いは共和党全国委員会が集めた資金を弁護士費用に回すことにあると言われているが、この戦略は裏目に出る可能性がある。米CNBCテレビによれば、献金者は共和党本部への献金を全国の共和党候補を当選させるためではなく、裁判費用に使うのではないかと懸念し始めているからだ。
 こうしてみると、トランプ氏が4件の刑事裁判開始の延期を図っている本当の理由は、もちろん有罪評決が11月5日の投開票日の前に下されると選挙に不利になるのだが、裁判が始まると裁判費用が増加し、選挙運動に十分な資金を回せなくなるという危機感があるからではないか。彼の常套句[じょうとうく]を借りて「どうなるかみてみよう」。
 (明治大教授)

 うんの・もとお 1960年、静岡市生まれ。心理学博士。専門は異文化間コミュニケーション論。米大統領選で研究の一環として、オバマ、ヒラリー・クリントンおよびバイデン陣営に参加。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など。

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