あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

テーマ : 浜松市

【時評】「浜名湖花博2024」開幕に向け 花に魅せられ 茶で交わる(高山靖子/静岡文化芸術大デザイン学部教授)

高山靖子氏
高山靖子氏

 まもなく「浜名湖花博2024」が開幕する。まずは、浜名湖ガーデンパークに先んじて3月23日に始まるはままつフラワーパーク会場(浜松市中央区)の桜とチューリップの競演は見逃さないようにしたい。
 チューリップといえばオランダが原産だと思われる方が多いが、実は、現在のトルコ共和国の原産で、16世紀頃にアナトリアを制したオスマン帝国の交易を通じてヨーロッパ各地へと広まったと伝わる。
 トルコ語でチューリップを意味するラーレ、イスラム教の神アッラー、オスマン王家の象徴である三日月を意味するヒラールは同じアラビア文字で構成されていて、オスマン帝国とアッラーとの結びつきを想起させることが、その花の美しさとともに歴代の皇帝達を魅了した。そして、昇華されたチューリップ文化は現在もトルコの人々の間に根付き、国花もチューリップとなっている。
 日本に負けない「もてなし文化の国」トルコの至る所で勧められるチャイ(紅茶)の伝統的な器も、チューリップ型である。底の方に膨らみがあり途中でくびれて口の部分に向かって広がる。高さ8センチ程の比較的小柄なガラスの器にハンドルは無く、熱い茶の入った器の上部を親指と中指でつまんで飲む。残った指を器から離して少しずつチャイを口に含み、路地にしつらえたカフェスペースでおしゃべりを楽しむ人々が街の景色を形成している。
 トルコのチャイは濃く煮出した紅茶に湯を注ぎ、好みの濃度に調整してストレートでいただく。「ラビット・ブラッド」という色がおいしい濃度の目安なのだそうだ。一瞬身構えてしまう表現だが、実際には褐色がかった深い緋色[ひいろ]である。紅茶が一般に普及したのはオスマン帝国崩壊後であり、コーヒーより歴史は浅い。コーヒーとの価格差や茶葉の生産に適した土地があったこともさることながら、振る舞う人数にも客人の好みにも対応しやすいチャイは、柔軟性と即興性を好むトルコ人の社交文化に適合したのではないだろうか。今やトルコは世界一の紅茶消費国となり、チャイの文化は国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されている。
 翻って、緑茶も私たち日本人の社交には欠かせない存在である。しかし、近年はペットボトル入りの茶に押され、茶葉で緑茶を入れる人が減っていると嘆かれる。ペットボトル入りの茶は茶葉消費には一役買っているが、社交文化を生み出しているだろうか。桜の下の野だても趣があるが、日常的な社交につながっているだろうか。そんな思いを巡らせながら、今年は花見で一杯、いや、何杯も緑茶を入れて、誰かといただいてみようかと思う。
 (静岡文化芸術大デザイン学部教授)

 たかやま・やすこ 1966年、愛知県生まれ。同県立芸術大美術学部卒。東芝デザインセンター、同大非常勤講師などを経て2007年に静岡文化芸術大着任。15年から現職。専門はプロダクトデザイン、デザインマネジメント。芸術工学博士。トルコ・イズミル経済大などとの国際交流もライフワークとする。

いい茶0
▶ 追っかけ通知メールを受信する

浜松市の記事一覧

他の追っかけを読む