テーマ : 浜松市

社説(5月10日)「森林との共生」 多面的機能 理解促進を

 静岡県の新しい森林共生基本計画(2022~25年度)が始動した。「『森林との共生』による持続可能な社会の実現」を掲げ、「社会全体で取り組む魅力ある森林づくり」を柱の一つに据えた。
 計画は、森林[もり]づくり県民税創設が決まった05年度に策定された「森林と県民の共生に関する条例」に基づき、定期的に更新している。森林づくり県民税を財源に県は毎年10億円規模の「森の力再生事業」を実施している。
 官民総がかりの森林保全に異論はない。県民や企業に参画を求め、特別な税金を徴収しているのだから、県には当然、情報公開と説明の責任がある。協働は、森林の多面的、公益的な機能についての理解促進から始まる。
 静岡市内のヒノキ林で昨年実施された森の力再生事業が、所有者の意図に反して「間伐」とは呼べない大規模なものになっていたことが先月、発覚した。県中部農林事務所は、獣害がひどいなど樹木の経済的価値が低いと判断して、作業する静岡市森林組合に、通常は5メートル幅の間伐を15メートル幅でするよう提案したとされる。
 森林の価値とは、樹木が高く売れることだけではなかろう。当該地では、かつて中学生が植林活動をした。
 組合と所有者は再生事業の補助申請を取り下げた。県の担当部長が公式に言明した通り、事態の経緯を徹底調査しなければならない。制度の目詰まりや気の緩みがなかったかも点検し、再発を防止しなければならない。
 19年度からは、国の新たな森林管理の仕組みが動きだし、地方自治体には森林環境譲与税が配分されている。21年度は静岡県が1億8千万円、県内市町は計10億2400万円で、浜松市が2億5900万円と最も多い。この制度の財源として24年度から、国民に森林環境税が課せられる。
 県民税による森の力再生事業と森林環境譲与税に関して県は、県事業は上流域の緊急性の高い森林整備を対象とし、森林環境譲与税は地元材使用や啓発など市町が実情に応じて使用するとしている。
 その通りにできるか、県の調整力が問われる。一般県民の生活圏とは遠い山林で今回のような不始末が起きているようでは心もとない。
 森林には、温暖化緩和、水源涵養[かんよう]、土砂災害防止、生物多様性保全、保健休養の場などさまざまな機能がある。理解促進へ、中山間地の「道の駅」や農林産品直売施設などを活用した都市と山村の交流機会を拡充してほしい。
 森林と山村は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の教室にもなる。

いい茶0

浜松市の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞