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テーマ : 経済しずおか

焼津のかつお節 遠のく薫り 明治創業「山七」が製造撤退 最高級「本枯節」も需要減…

 焼津市の老舗かつお節加工「山七」が116年続いたかつお節製造から3月末で撤退することが11日までに、関係者への取材で分かった。高い技術力が求められる本枯節の製造を担う市内でも数少ないメーカーの一つ。丁寧な製法で「焼津のかつお節」のブランドを築いたが、材料となるカツオや燃料費の高騰、カツオ需要の減退といった流れに逆らえず、幕を閉じる決断をした。

製造が終わったかつお節製造工場の様子を確認する山七の鈴木隆社長=3月上旬、焼津市内
製造が終わったかつお節製造工場の様子を確認する山七の鈴木隆社長=3月上旬、焼津市内
山七が製造したかつお節
山七が製造したかつお節
製造が終わったかつお節製造工場の様子を確認する山七の鈴木隆社長=3月上旬、焼津市内
山七が製造したかつお節


 同社は明治41(1908)年創業で、かつお節とふりかけ、冷凍総菜を製造している。かつお節部門では、本枯節のほか、かつおだしの原料を作り、大手かつお節メーカーに卸している。
 本枯節は厳選された原料のカツオを使い、カビ付け工程を経て、半年ほどかけて完成させる。高級料亭で使われることが多い最高級のかつお節で、高い技術力が求められる一方で、手間暇もかかることから、焼津市内では手がける会社は同社を含めて2社と数少ない。
 同業他社が大量生産型に移行する中、まきを使って煮たり、煙でいぶしながら乾燥させたりと一つ一つの工程ごとに丁寧に作っていく伝統手法を維持。高い技術力が認められ、靖国神社(東京都)などに献上するかつお節の製造も長年担ってきた。
 ただ、足元は厳しい状況が続いた。希少性のある1本のかつお節を作ったとしても、かつてのような婚礼といった「縁起物」需要は減少した。コロナ禍前に比べて、電気代は5割、排水処理代は2割、それぞれ上昇。原料となるカツオも数年前は1キロ平均150円台だったのが、ここ数年は200~300円を推移し、利益を圧迫した。鈴木隆社長は「ここ数年は意地でやり続けてきた」と打ち明ける。
 かつお節製造撤退後、同社は肉や魚、野菜などを使った冷凍総菜とカツオなどを使ったスーパー向けのふりかけを事業の柱に据える。
 (焼津支局・福田雄一)

事業継承会社「大きな損失」
 山七のかつお節製造部門は4月から、焼津市のかつお節製造「トマル水産」が事業継承する方向で最終調整している。山七が担ってきた伝統的な製法を途絶えさせてはいけないと名乗りを上げた。4月からの再出発に向けて体制を整える。
 部門撤退するに当たり、山七の鈴木社長は「焼津のかつお節製造の伝統は残していきたい」という考えから、事業継承に向けて複数社に打診していた。
 トマル水産は山七のかつお節製造工場(同市)をそのまま引き継ぐ。山七のかつお節製造に携わっていた従業員の一部が残り、本枯節の製造を続けていく。
 トマル水産代表で焼津鰹節水産加工業協同組合の大石智之組合長は「焼津産の本枯節は全国ブランド。その製造を実質一手に担ってきた山七の事業撤退は業界として大きな損失」と事業継承を決断した理由を語った。  

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