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テーマ : 経済しずおか

【経済フォーカス】電卓60年、先端技術の礎に スマホ全盛でも根強い人気

 国内初の電卓が登場して60年を迎える。メーカー各社が開発にしのぎを削る中で先端技術が育まれ、半導体や液晶などが進化する礎になった。国内出荷台数は、電卓機能を備えたスマートフォンの全盛で減少しているが、売上高や利益の計算に追われる企業の経理担当者に手放せない人は多く、根強い人気を誇る。
キヤノンが1964年10月に発売した電卓「キヤノーラ130」と長健夫さん=東京都港区電卓の国内向け出荷台数の推移
 国内1号機は早川電機工業(現シャープ)が1964年6月に発売した「CS-10A」。当時主流だった電動の機械式計算機は歯車の動く音が大きく、操作も複雑だった。「CS-10A」は、電気の流れをコントロールする半導体素子「トランジスタ」を使い、稼働音が静かで計算が速いのが特長だった。25キロの重さがあり、53万5千円と高価だったが、官公庁や企業に重宝された。
 触発されたのがキヤノンとカシオ計算機だ。「シャープ100年史」には「電卓戦争」と書かれている。キヤノンは64年10月、カメラ用レンズの設計に欠かせない複雑な計算に使う目的で開発した電卓を「キヤノーラ130」の商品名で発売した。重さを15キロに、価格を39万5千円に抑えたが、主に企業向けであることは変わりなかった。
 65年に参入したカシオは、一般家庭の需要を掘り起こそうと、小型化、低価格化を進め、72年8月に手のひらサイズの「カシオミニ」を1万2800円で発売。大ヒット商品になった。
カシオ計算機が1972年8月に発売した電卓「カシオミニ」
 軽くて小さい電卓を目指した各社の開発競争は国産技術の発展に貢献した。消費電力を抑えられる半導体や液晶、太陽電池が代表例だ。カシオの代名詞ともなったデジタル腕時計は「時間を1秒ずつ足し合わせる」という考えに着想を得て、電卓の計算技術を応用して開発したものだった。
 シャープ、キヤノン、カシオは今も電卓の開発を続ける。シャープで事業に携わってきた笹岡孝佳さんは「当社の電卓が大きな礎となり半導体や液晶ディスプレーなどの創出につながった。大きな社会貢献を果たせた」とコメント。キヤノンの販売会社で商品企画を担当する長健夫さんは「これからも脱プラスチックなど時代に沿った商品を出したい」と意気込む。
 カシオは今年、3万8500円の電卓を発売した。腕時計と同じように愛用品にしてほしいとの思いを込めた。商品戦略部の木村加奈子さんは「これまでの常識にとらわれず、専用機ならではの価値を提供したい」と話す。

 電卓 「電子式卓上計算機」の略称で、2023年の国内向け出荷台数は330万台。電卓機能を備えたスマートフォンの普及を背景に9年連続で前年から減少した。23年の海外向け出荷台数は4325万台で、3年ぶりに前年を下回った。1960年代半ばから70年代にかけての「電卓戦争」では、国内50社超のメーカーが激しい開発競争を繰り広げた。
早川電機工業(現シャープ)が1964年6月に発売した国内初の電卓「CS―10A」生活雑貨を扱う「ハンズ渋谷店」の電卓売り場=東京都渋谷区

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