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テーマ : 経済しずおか

日銀 念願の異次元脱却 政府、財界容認 後押し マイナス金利解除【表層深層】

 日銀が19日、マイナス金利政策を解除した。今春闘の賃上げが高水準で、政策を正常化する環境が整ったと判断した。景気の下支えを続けてほしいと政策変更に反対してきた政府も、物価高という副作用の深刻化で後押しする側に回った。日銀にとっては異次元緩和からの念願の脱却だが、これが物価高を抑制し、消費者に恩恵が及ぶかどうかが焦点。物価を左右する外国為替相場の動向が当面、注目される。
マイナス金利政策の解除などを決めた金融政策決定会合後に、記者会見す日銀の植田総裁(奥)=19日午後、日銀本店
 「異次元緩和は終了した」。日銀の植田和男総裁は19日の記者会見で言い切った。マイナス金利を長く続けたため不測の混乱が起きないよう小幅の利上げにとどめたと説明。中小企業の賃上げは「ある程度以上上がる自信や根拠があってということでは必ずしもない」とも述べた。

 失敗の烙印
 マイナス金利解除を含む利上げは円安を抑える効果が期待されるが、この日の東京外為市場は、日米金利差が続くとの受け止めから円安に振れた。円安の進行は、物価高を招く要因となる。
 日銀が異次元緩和を始めたのは、黒田東彦氏が総裁だった2013年。2年で物価上昇率を2%に高める目標を達成できなかった。16年にマイナス金利政策を導入したが、この政策は効果が疑問視された上、銀行の収益を圧迫した。日銀内部に「マイナス金利だけでも早く解除したい」との思いは強かった一方、解除には「慎重を期す必要があった」(日銀OB)。利上げを急ぎ、集中砲火を浴びてきた経験があるからだ。
 日銀は00年に政府の反対を押し切り、ゼロ金利政策を解除したが、景気は間もなく後退。緩和方向に再びかじを切らざるを得なくなった。06年にも量的緩和を解除し、その後経済は失速。「早期正常化を意識して失敗する」(経済官庁幹部)と烙印(らくいん)を押された。

 「もう十分」
 日銀は今回、政府や経済界から利上げへの反対がなくなるのを待った。日銀と対照的に米連邦準備制度理事会(FRB)は物価高を抑えようと利上げを進め、歴史的な円安ドル高が進行した。
 ロシアのウクライナ侵攻も物価を押し上げ、支持率低下を警戒する岸田政権内では、緩和策の見直しで対処すべきだとの考えが広がった。円安が加速すると、財務省幹部は「日銀はいつまで大規模緩和を続けるのか」といらだつようになった。
 経団連の十倉雅和会長は11日の記者会見で「そう遠くない将来において金融正常化にかじを取られる可能性が強い」と政策変更を促した。日銀幹部は「物価や賃上げ動向だけでなく、政府から『緩和はもう十分』との声が強まったことも安心材料になった」と話す。

 見通し交錯
 利上げは銀行の貸し出しを減らすなどし、景気を冷やす効果がある。先行きはどうなるのか-。みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介主席エコノミストは「個人消費は回復基調を強めていく」と見通す。「食料品などを中心に物価高は落ち着いていく」とみる。
 一方、元日銀審議委員で野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「現状は賃金と物価の好循環に至っていない」と分析する。来年の賃上げは力強さを欠き「日銀は政策変更したことを批判される状況に追い込まれる恐れがある」と懸念を示した。

Q&A 日銀の政策変更 金利を上げ 物価高抑制  マイナス金利解除のイメージ  日銀がマイナス金利政策を解除し、政策金利を17年ぶりに引き上げることを決めました。
 Q 政策金利とは。
 A 世の中の金利水準の目安となる短期金利のことで、日銀など中央銀行が目標を設定して誘導しています。物価が高騰したり景気に過熱感が出てきたりすれば金利を引き上げて抑制し、景気悪化時は金利を引き下げて個人消費や企業の設備投資の意欲を刺激します。
 Q マイナス金利政策とは。
 A 民間銀行は日銀やその他の銀行とお金のやりとりをするため、日銀に当座預金口座を持っています。日銀はこの預金の一部に事実上手数料となるマイナス0.1%の金利を適用し、これを政策金利にしていました。預金が積み上がると損になる状況をつくり、民間銀行が世の中にお金を回すよう促していました。
 Q 今後は。
 A 政策金利は、金融機関同士が短期の資金を貸し借りする際の「無担保コール翌日物金利」に改めます。具体的には、日銀が銀行が持つ当座預金の一部に0.1%の金利を適用し、この水準が無担保コール翌日物金利の事実上の上限になります。実際には、生命保険会社など日銀に当座預金を持たない金融機関もお金の貸し手となるため、競争が働くことで金利は誘導目標の0~0.1%程度で推移するとみています。
 Q 長期金利は。
 A 「イールドカーブ・コントロール」と呼ばれる長短金利操作を撤廃します。これまでは長期金利の指標となる新発10年債の利回りを1%めどに抑え込んで、景気を刺激してきました。
 Q 撤廃の理由は。
 A 物価高騰で家計は苦しい状況ですが、賃金が上がることで景気が落ち込むのは避けられると判断したためです。連合が15日に公表した今春闘の平均賃上げ率は5.28%と歴史的な水準に達しました。
 Q その他の修正は。
 A 株式市場を安定させるための上場投資信託(ETF)の新規購入を終了します。株価を買い支えることは世界の中央銀行の中でも異例の政策でした。日銀がETFの保有を通じて間接的に大株主になる企業も多く、市場の流動性や企業統治の観点から問題視されていました。

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