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志賀高原ビール(長野県山ノ内町) 「最良の食中酒」追求 ホップ、酒米 自社で栽培【クラフトビール群雄割拠 静岡/山梨/長野/新潟⑦】

 静岡、山梨、長野、新潟4県の県紙が地元のクラフトビールを取り上げるこの連載。長野県からの第2陣は、下高井郡山ノ内町で創業218年の造り酒屋、玉村本店が手がける「志賀高原ビール」。山からの湧水で仕込み、自分たちで育てたホップや米、果実といった土地の恵みも織り交ぜながら、唯一無二の「個性ある食中酒」を醸している。

煮沸釜にホップを投入する佐藤栄吾社長
煮沸釜にホップを投入する佐藤栄吾社長
創業218年の造り酒屋、玉村本店。建物にも風情が漂う
創業218年の造り酒屋、玉村本店。建物にも風情が漂う
心地よいホップの苦みが広がる「志賀高原IPA」
心地よいホップの苦みが広がる「志賀高原IPA」
醸造所の近くで社員がホップを収穫。17年たった今では7品種を育て、11種のビールに使っている=2022年8月
醸造所の近くで社員がホップを収穫。17年たった今では7品種を育て、11種のビールに使っている=2022年8月
煮沸釜にホップを投入する佐藤栄吾社長
創業218年の造り酒屋、玉村本店。建物にも風情が漂う
心地よいホップの苦みが広がる「志賀高原IPA」
醸造所の近くで社員がホップを収穫。17年たった今では7品種を育て、11種のビールに使っている=2022年8月


 玉村本店は1805(文化2)年創業の老舗で、清酒「縁㐂[えんぎ]」の醸造元。北信濃の名湯、渋温泉で商売を続けてきた。スキーやトレッキングの聖地、志賀高原の麓。雪景色の中で温泉に漬かるニホンザル「スノーモンキー」を見られる地獄谷野猿公苑もほど近い。
 社長で8代目の佐藤栄吾さん(57)が帰郷し、家業に入ったのは20年前。翌2004年からビールを造り始めた。スキーブームは去り、日本酒の消費低迷が続いた当時。「地ビール」業界にも淘汰[とうた]の厳しい風が吹き、新規開業はまれだった。税務署から「200年も酒屋をやってきて、本気ですか」と疑われた。それでも、新分野に魅力と可能性を感じ、廃業した醸造所から設備を買い受けて挑んだ。
 「自分たちの飲みたい、最良の食中酒」が、今もぶれない信念だ。クラフトビールは多種多様で原料の組み合わせは果てしない。レシピを考え抜き、妥協はない。構想から数年かけて世に出した商品もある。「自らの感性で提案し、経験を積んでここまで来た」と佐藤さん。
 「農と醸」をうたい、社員24人は農作業にも汗を流す。06年から力を入れたのがホップ作り。信州は「ホップ王国」と称されるほどの産地だったが、25年前に地元の生産団体は解散した。ゆかりの品種「信州早生[わせ]」の苗を県外から取り寄せ、地道に栽培面積を増やしてきた。このホップと、同じく自社の酒米を使った「ミヤマブロンド」は、この場所、この醸造所ゆえの「原料から造る酒」を体現した一品だ。醸造過程で出る麦芽かすも堆肥にして、自社の田畑で再利用している。
 自社のホップや酒米を使ったり、ウイスキーやワインに用いた木樽で熟成させて風味を豊かにしたり。自分たちで収穫したブルーベリーや梅を入れた商品もある。こうして手がけるのは年間30~40種類。昨年、仕込みの累計が2千回に達した。コロナ禍で、農業にさらに本腰を入れた。「この土地での物語があり、飲まれる理由になったら」と佐藤さん。食卓を、人生を、より彩り豊かに-と願い、前進は続く。
 (信濃毎日新聞社)  基本変えず進化続ける 「志賀高原IPA」  ホップの鮮烈な香りと苦味を、モルトのうまみが土台となり包み込む。IPA(インディア・ペール・エール)は今でこそ人気が定着したが、かつての「地ビール」全盛期はピルスナーやヴァイツェンが主流。20年前にIPAを主力に据えた先駆けとして、ファンから根強く支持されている。
 志賀高原ビールが生まれて以来の定番は、このIPAとペールエール、ポーターの三つ。「味の基本は変えずに細かいブラッシュアップ(進化)を続けている」と佐藤社長。3年前にはコロナ禍と闘う飲食・観光業や医療関係の人々を対象に、IPAの瓶1万本を無料で提供し、反響を呼んだ。
           ◇  
志賀高原ビール 2004年、酒蔵の隣で醸造を始め、15年に新工場が稼働。長野県山ノ内町平穏1163。電話0269(33)2155。

 ※㐂は品の口がそれぞれ七

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