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テーマ : 静岡市

個別最適な学びへ 宿題や家庭学習どう取り組ませる?⑤ しずしんニュースキュレーターと読者の意見【賛否万論】

 前回の賛否万論では、理想的な放課後の学びについて、「個々にカスタマイズした宿題は非現実的だが、運用を工夫する柔軟性は必要」「学力向上に加え、『非認知能力』の養成も大事」「子どもにどのような学力を求め、夢の実現を後押しできるか、親の度量が問われている」などの意見が寄せられました。多様な価値観が入り交じる現代。宿題や家庭学習が果たすさまざまな役割を多方面から考察することが「個別最適な学び」を理解する端緒になるのでは、と感じました。今回もキュレーターと読者の声を紹介します。
日本のあらゆる学び デザインし直すべき
キュレーター 松浦静治さん(島田市)


 

 

任意団体Study Like Playing代表。20年間の小中学校教員生活の後、早期退職して地域で子どもを育む活動を実践。フリースクール、寺子屋、自然体験教室等を展開

 まずは放課後、机に向かって「漢字練習」と「計算ドリル」と「音読」をするような宿題なんてやめましょう。放課後こそ、子どもたちが多様でワクワクする体験を提供する時間にしましょう。私が理想に思う「放課後の学び」は子どもたちと地域の人が一緒になって、自分たちのやりたいことをやることだと思っています。例えば、子どもと地域の人が一緒に将棋をしたり、お菓子作りをしたり…。地域にはいろんなスキルをもった大人がいますし、大人もまた新しいことを学んでみたいと思っています。それを子どもたちと一緒にやればいいと思うのです。
 その会場として、放課後の「学校」は最適だと思います。放課後の学校の校舎はほとんど使っていません。将棋をしたい人は会議室へ、お菓子作りをしたい人は家庭科室へ、木工をしたい人は図工室へ、城跡の研究をしたい人は図書室へ、外国語で会話をしたい人は視聴覚室へ、ドッジボールをしたい人は体育館へ、動画編集をしたい人はパソコン室へという具合に。部屋はそろっています。もちろん、“先生”ではない人を管理責任者として配置した上で。
 私は、将来的な「学校」は午前中だけ授業をやって、午後は地域の人と子どもが一緒に過ごす場所になったらいいと思っています。とにかく宿題をやらせて、テストの高得点を望む保護者からは「好きなことだけをやらせておけばいいのか? 勉強の基礎はどうするのか?」という声も聞こえてきそうですが、私はまず「勉強は苦痛でつまらないこと」という今の学校教育を即刻やめて「学ぶことは楽しくてワクワクすること」へ転換するべきだと思っています。その上で、漢字を学ぶことも、計算の仕組みを知ることも、名作の文章を読むことも楽しいことだと伝えるべきだと思っています。漢字に限らず「文字」には素晴らしい成立過程があります。算数・数学の世界の果てしなさは単純な計算の繰り返しで嫌いにさせるのはもったいないです。名作の文章は何度も声に出して暗記するくらいに読んだら、人生が豊かになります。本来はそれをアテンドするのが教師の仕事です。試験に出るからやるのではないのです。つまり「勉強の基礎基本」もそれを学ぶ楽しさを上手に伝えれば、苦痛を感じずに学ぶことができると思っています。
 教科書の内容が多すぎて、教育現場が疲弊する中、指導内容を減らして、地域の人を巻き込んだ体験的な学びを増やすためには、こうしたいわゆる「コミュニティースクール構想」が鍵を握る、と考えています。一刻も早く「試験のための勉強」を脱却して、「人生を豊かにするための学び」に転換しましょう。日本は「放課後」の学びだけでなく学校や社会、生涯の全ての学びをデザインし直す必要があると思っています。

学んだこと 披露する場をもっと
キュレーター 杉山有希子さん(掛川市)


 

 

イベント会社「ママバトン」代表取締役・2男1女の母。4月から伴走型人づくりスクール2期を主宰。街づくりは人づくりから、の理念で人材育成に励む

 子どもに「一番嫌いなものは何?」と聞いたとき、真っ先に出てくる答えは「宿題」ではないでしょうか。朝から教室に拘束され、勉強を何時間もやらされ、ようやく夕方になって友達と思いっきり遊ぼうとする。それを「ちょっと待て」と阻もうとするのが宿題です。勉強の習慣がある子がいたとしても、学校が出す宿題がどの程度、学力向上に関係しているのか、疑問を持っている大人もいると思います。
 私は宿題をやる意味があるかないか、で考えるのならば、「意味はある」と思っています。もう書ける漢字をただただ書いていくことにも意味はあります。やはり書くことで手が覚えます。自主学習をタブレットで調べて丸写しにしたとしても意味はあります。調べる行為に頭を使うからです。家庭学習をもっと自主的に変えていくのであれば、例えばゲームが得意な子にはプログラミングに取り組ませ、完成したあと披露の場があるといいのでは? アイドルが好きな子には好きな曲を英語にして発表してもらう。ダンスや工作なども同じで、いろんな方に見てもらうことは効果的です。
 私自身に置き換えてみても、講座や講演を頼まれたら「成功させたい」「喜ばせたい」と思うので、自主的に何度も何度も書いて、話して、練習します。自主的な家庭学習を学校が指示したら「自主的」ではなくなってしまうなぁ…なんて、宿題についてあれこれ考えながらも、それでも出された宿題を毎日あの手この手で子どもにやらせているお母さんお父さん。もはや親の宿題(試練)ですよね、毎日お疲れさまです。
 私も子どもの時は「宿題に意味あるのかな?」と思いながら大人になって、「意味あるのかな?」と考えながら子どもにやりなさいと声をかけています。今になって「あの頃もっとやりたい勉強を見つけて学びたかった」と思っています(大人になって気づく人がほとんどですよね)。このテーマをきっかけにたくさんの方が考えてくれたらうれしいです。
地域とつながる取り組みに賛成
読者 大島宏幸さん (長泉町) 60歳
 そもそも「個別最適な学び」とは何? 教育新聞で概念を読んでみた。教員が知識を詰め込むのではなく、グループ討議をやって、他者との意見を共有しながら合意形成をする力をつける、というのが目的なのかな。
 塾や習い事は学校の延長で知識を詰め込むだけだから、主体性が育たないだろうな。地頭が良い子どもは授業中に理解しているので放課後に復習するよりも、自分が興味を持つ分野の調査や、本を読む時間を持つ方がいいと思う。探究学習は知的好奇心がなければやりたいと考えない。誰かの指示で行う学習はやらされ感があって、「個別最適な学び」とは言えないのではないか。
 静岡大の学生の意見を読むと、文部科学省もおそらく、日本の教育をフィンランドのようなアクティブ・ラーニングに変えていきたいのだと思う。日本の場合、受動的な学びに偏りすぎだと感じる。同大教育学部の稲葉英彦准教授が言う「個の良さを認める発想が大事」には賛同できる。個の良さを認めないから不登校が増えているのだろうな。失敗を許容しない世の中が原因なのか、イマドキの子は打たれ弱いのかな? 正解にたどり着くパターンを覚えてテストの点を上げるというような、効率的な考え方になるから打たれ弱くなるのだろう。
 静岡市教委が小中一貫教育で養成する「つながる力」は、昭和の子どもたちがやっていたことだと思った。「地域の日」の活動で、地域の絆ができることは良いことだと思う。東京学芸大付属世田谷小教諭の沼田晶弘さんの授業は、児童の自主性を引き出すためにマネジメントの手法を応用しているのだなと感じる。放課後の学びでやることは何か、企業の人材育成と同じで、知識を詰め込むだけだと、指示待ちでマニュアル人間になる。人材育成のフレームワークを学校教育用にアレンジしてPDCA(目標・計画、実行、確認、対策・改善)サイクルを回していくのも一つのやり方になるだろう。

次回も同じテーマで、しずしんニュースキュレーターや読者の意見を紹介します  ご意見お寄せください
 子どもたちにとってどんな“放課後の学び”が理想だと考えますか。各家庭や学校での取り組みやエピソードなど幅広い視点の投稿をお待ちしています。
 宛先は〒422―8670(住所不要) 静岡新聞社編集局「賛否万論」係、<ファクス054(284)9348>、<Eメールshakaibu@shizuokaonline.com>

 キュレーター
 「しずしんニュースキュレーター」は、新聞記事や時事問題の“ご意見番”として、静岡新聞の記者が推薦した地域のインフルエンサーです。毎回それぞれの立場や背景を生かしたユニークな視点から多様な意見を寄せてもらいます。

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