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テーマ : 静岡市

大自在(4月12日)新茶初取引

 江戸時代の笑い話である。父親が息子を戒める。「お前は人様の衣服から財布、きせるまで、何にでも値段をつけたがる悪い癖がある。気をつけよ」。息子が両手をついて答える。「ご意見五両、堪忍十両と申しますが、ご忠告は三百両の値打ちがございます」。
 モノの値段は需給で決まり、グラフの需要曲線と供給曲線が交差した点が市場価格、均衡数量だと習った。それを目の当たりにする茶の取引が流通規模日本一の静岡市の茶問屋街で始まった。ただ、近年は茶の生産量が減っているのに価格は上向かない。
 静岡の茶取引は競りや入札ではなく、相対[あいたい]で行われる。農家側が1キロ当たり希望単価(親値)を提示し、製茶問屋は値下げを求める。
 親値付けに助言するのが、けさ新茶初取引式典を開く静岡茶市場の役割。肥料代など生産コスト高や相次ぐ値上げで冷え込む消費などが親値にどう影響するか注目される。
 取引には大きめのそろばんが使われ、いい意味でデジタル化されていない。そろばんには持ち方があり、仲立ち人は左手でそろばんの左上の角をつかみ、盤面を立てて右手の指で玉をはじくのが粋だとか。売り手、買い手の思惑を相手に見せず、時に勢いをもって速断を促す。折り合いがつくと、そろばんを台に置きシャシャシャンと手合わせする。
 相場が形成される「場の力」には数字で表せない魅力があり、そろばんがある風景には親しみが感じられる。しっかり者の女房の機知が神に通じ幸運が転がり込む落語「お神酒[みき]徳利[どっくり]」のそろばん占いのおかしさを連想させる。

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