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【時評】台湾と海洋史研究で協力推進 黒潮蛇行の影響 解明へ(浜下武志/静岡県立大グローバル地域センター長)

浜下武志氏
浜下武志氏

 静岡県立大グローバル地域センターでは海洋史研究の視点から、台湾中央研究院台湾史研究所と台湾近海漁業と静岡焼津港の共同研究を進めており、研究者の相互派遣を含めた取り組みを準備している。
 台湾近海では近年、海水温暖化に伴う漁場の北上により、トビウオ卵漁業の後退が著しく、卵の漁獲量が激減している。卵漁業が縮小している主な原因は気候変動であり、トビウオがいなくなったり、産卵に来なくなったりするのは、気候温暖化によって漁場全体が北上しているためだと考えられている。
 トビウオは海洋表層に生息する魚種で、水温に大きく影響される。産卵に最も適した水温は26~29度だが、台湾東北海域の水温は近年29度を超えている。トビウオが産卵のために台湾まで南下する必要はなく、漁場はすでに北緯28度以北に押し上げられ、台湾の漁船が操業できる範囲をはるかに超えているという。
 海洋の温暖化による漁業資源の北上については日本においても確認されている。黒潮の南北の温度差については、マレーシアのトレンガヌ大学、長崎大学、釜山の釜慶大学、青島の国立海洋大学で調査研究ネットワークが形成されている。しかし、台湾北部海域から日本の太平洋岸さらに伊豆諸島沖にかけてみられる大小の黒潮の蛇行と呼ばれる現象ならびに海洋生物への影響は、新たに提起されている課題である。
 黒潮は海流の帯として北上する過程で、2種類の流路パターンを示す。一方は東海沖で大きく南方へ迂回[うかい]する「大蛇行流路」であり、他方は本州南岸にほぼ沿って流れる「非大蛇行流路」と呼ばれ、共に1年から数年程度の持続性がある。通常、大蛇行が発生する経緯は、前兆となる小蛇行が九州南東沖で発生し、数カ月かけて発達しながら東進し、東海沖に大蛇行が形成される。他方、台湾沖の渦の影響を調べると、時計回りの渦の内部に含まれる周囲よりも暖かい水が、黒潮を通じて九州沖まで運ばれ、小蛇行の南側に発達した時計回りの循環を作る。
 黒潮に伴って発生する大小の蛇行が、魚類をはじめ海洋生物の生態にどのような影響を与えるか―という、いわば、黒潮海流の異なる海域性が複合して温暖化や生態系に与える影響については、台湾近海から静岡沿海までに及ぶ海流蛇行の調査研究によって明らかにされる課題である。
(浜下武志/静岡県立大グローバル地域センター長)

 はました・たけし 1943年、静岡市生まれ。県立静岡高卒、東京大大学院人文科学研究科博士課程単位取得。同大東洋文化研究所長、京都大東南アジア研究所教授などを経て2017年10月から現職。著書に「近代中国の国際的契機―朝貢貿易システムと近代アジア」「華僑・華人と中華網」など。

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