あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

テーマ : 読み応えあり

【認知症高齢者推計】社会の理解増進が鍵 新薬期待、診療体制懸念

 政府が8日公表した推計では2060年の認知症の高齢者数は645万人(高齢者の17・7%)とされた。15年公表の前回推計では850万人とされ、約200万人少ないものの、将来的な増加が止まるわけではない。期待されている新薬は使用の際の制約が多く「現在の診療体制ではニーズに対応できない」との声も。当事者は、社会の理解増進や活躍の場の拡大が必要だと訴える。

レカネマブの投与(エーザイ提供)
レカネマブの投与(エーザイ提供)
認知症の推計減の主な要因
認知症の推計減の主な要因
レカネマブの投与(エーザイ提供)
認知症の推計減の主な要因

 ▽予防
 「認知症への偏見があると、自分が認知症になった時に暮らしづらくなり地域から疎遠になる」。8日、政府の認知症施策推進関係者会議に当事者として出席した春原治子さん(80)は、いざというときに助け合える地域づくりを呼びかけた。
 認知症デイサービス「100BLG」(東京)を運営する前田隆行さん(48)は認知症の人が働く環境づくりに関わる。「認知症の人が外で働くことに難色を示す地域もある。社会に参加してもらいながら見守っていくことが必要だ」と強調した。
 高齢化に伴い認知症の人が増えることは以前から想定されていた。国は15年、本人の意思を尊重し、できる限り住み慣れた地域で暮らし続けられるよう「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」を策定。19年には発症や進行を遅らせる「予防」に重点を置いた新たな大綱を決めた。
 ▽変化
 さらに認知症に特化した初の法律「認知症基本法」が24年1月に施行。首相が本部長の「認知症施策推進本部」の設置や、国が本人や家族らの意見を反映して「基本計画」を作ることなどを盛り込んだ。当事者らによる関係者会議も立ち上げ、秋の基本計画策定に向けて検討を進めている。
 今回の推計はその会議の中で示された。厚生労働省研究班は、前回推計より少なくなった理由として、予備軍とされる軽度認知障害(MCI)から認知症に進展する割合が低下した可能性があるとする。発症リスクを高めるとされる喫煙をする人の割合の低下、生活習慣病の改善、健康意識の変化が主な要因という。
 国民生活基礎調査によると、01年の喫煙率は男性48・4%、女性14・0%だったが、22年は男性25・4%、女性7・7%。減塩の啓発が進み、降圧薬、高脂血症薬、糖尿病薬も普及した。
 65歳以上の約2400人を対象にした22年の内閣府「高齢者の健康に関する調査」では、9割以上が健康に関し「心がけている」と答えている。
 ▽限界
 昨年12月にはエーザイなどが開発した待望の新薬「レカネマブ」の販売が始まった。神経に悪影響を及ぼすとみられるタンパク質を取り除き、症状の進行を抑える働きがある。
 投与対象は、認知症の6~7割を占めるアルツハイマー病による軽度の認知症とMCIの人。東京都健康長寿医療センターの井原涼子・脳神経内科医長はMCIと診断されるのが重要だとして「物忘れを感じたら、まずはかかりつけ医に相談してほしい」と強調する。
 ただレカネマブは、投与できる医療機関が限られる。さらに2週間に1度、1時間ほどかけて点滴で投与するため、受け入れ可能な人数にも限界があるのが現状だ。
 井原さんは、より投与しやすい薬の開発や、治療に用いるガイドラインの更新などが必要だと指摘。「国全体として認知症の医療提供体制を見直していくべきだ」と話した。

いい茶0
▶ 追っかけ通知メールを受信する

読み応えありの記事一覧

他の追っかけを読む