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【記者書評】新川帆立著「女の国会」 男社会に物申す大衆小説

 多くの人が疑問を感じ、不満に思うことがある。その実相をすくい上げ、勧善懲悪の物語に仕立てながらも、その核には現状を変えたいと願う熱い思いが込められている。大衆小説の理想をそう定義すれば、今作は間違いなく、それを目指して書かれたものだろう。

「女の国会」
「女の国会」

 舞台は国会。ある女性議員の死から幕を開ける。政治家一家の3代目で、あだ名は「お嬢」。ライバル関係にあった野党議員・高月と政策秘書の沢村は、自殺と伝えられたことに違和感を覚える。「お嬢はそんなヤワな女じゃない」。死の真相を調べ始める。
 全4章、それぞれ視点人物が切り替わる。秘書の沢村、政局を追う新聞記者の和田山、子育て中の地方議員・間橋、そして鋭い弁舌で鳴らし「憤慨しています」が口癖の高月。政治の現場に関わる20~40代の女性4人は皆、圧倒的な男社会の中で闘っている。これは残念ながら今の日本の姿そのものだ。
 宴席で太ももに手を添えてくる有力支援者。取材中、「おっぱい触っていい?」と言ってくる大物議員。地元と国会を往復して日々激務をこなす高月は初当選以来、ずっと生理が止まっているという。そんな理不尽な状況に対する彼女たちの「怒り」は真っすぐ、世の中全体へと向けられる。
 目を覆いたくなるような現実も盛り込まれつつ、きちんとエンターテインメントに昇華された物語に、気がつけば一喜一憂。お嬢の死に伴う補欠選挙や政局の行方にハラハラさせられるほか、秘書や議員の「お仕事小説」としても存分に楽しめる。ミステリーとしては粗削りな印象も感じられるが、それを補って余りある熱量とキャラクターの魅力がある。
 「元彼の遺言状」での鮮烈なデビューから3年、猛烈な勢いで書き続ける著者。離婚を巡る女性側の悲哀に寄り添い、読者を勇気づけた前作「縁切り上等!」以降、「世直しモード」に入ったように感じられる。同時代に生きる者として、とても頼もしく思う。(平川翔・共同通信記者)
 (幻冬舎・1980円)

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