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社説(5月12日)「防災県」の推進 実効性向上と底上げを【2024選択 知事選】

 静岡県は「防災先進県」なのか。1976年に東海地震説が提唱されて以来、官民を挙げて全国に先駆けた地震対策を進めてきたのは確かだ。その結果として防災の先進地域という見方が生まれたのかもしれない。県関連のホームページやパンフレットなどでも紹介されている。
 ところが、現在でもそう言い切れるかは甚だ疑問だ。2021年7月、人災の側面が強いといわれる熱海市伊豆山の土石流災害を防ぐことができなかった。今年元日に起きた能登半島地震で注目された住宅や水道管の耐震化率は全国平均を上回ってはいるものの、突出して優れているわけでもない。
 南海トラフ地震が想定される中、いかに防災対策の実効性を高め、県民の防災意識を底上げするかが問われよう。先人たちの努力でソフト面、ハード面ともに地域防災の基盤はできている。最新の知見や教訓を生かし、より洗練させていくことが求められる。

 今月9日で伊豆半島沖地震発生から50年を迎えた。マグニチュード(M)6・9の地震で斜面崩壊などが起き、30人が犠牲になった。伊豆半島周辺ではこの後も地震活動が続く。1978年には伊豆大島近海地震(M7・0)が発生し、崖崩れなどで25人が犠牲になった。80年にも伊豆半島東方沖地震(M6・7)が起きた。
 こうした状況で「明日起きても不思議ではない」といわれた東海地震説は切迫感をもって受け止められた。提唱から半世紀が近づくが、まだ東海地震は起きていない。一方で、南海トラフ沿いで起きる東海地震と南海地震を合わせた規模の巨大地震発生が危惧されることになった。
 本県の防災対策は、95年の阪神大震災、2011年の東日本大震災などを経て、改善されてきた。防潮堤や避難タワーの建設など津波対策も進んでいる。県内市町も含めて積極的に職員を派遣して被災地支援も行ってきた。能登地震でも支援先の石川県穴水町などに累計で3千人以上が派遣された。現場での体験を今後の活動に生かしてほしい。
 能登地震では改めて住宅耐震化の重要性が浮き彫りになった。犠牲者の多くは住宅倒壊によるためだ。また、長期間にわたる断水の解消も切実な問題となっている。住宅耐震化率(18年)は、全国87%に対して本県は89・3%。基幹管路と呼ばれる水道管の耐震適合率(22年)は、全国42・3%に対して本県は44・8%。いずれも向上させていく努力が欠かせない。

 県が掲げる住宅の耐震化目標は25年度に95%。住宅を残すことができれば早期の生活復旧も難しくない。課題となるのは経済力が弱い高齢者世帯だ。経済負担を強いる耐震化が無理なら、より負担が軽い「耐震シェルター」や「防災ベッド」によって倒壊による生き埋めを防ぎたい。
 三方を海に囲まれ、山地も多い半島地形での交通網寸断と集落孤立化も、能登地震では課題となった。伊豆半島は能登半島と似た特徴を持つ。また、県中・西部の中山間地も同様の問題を抱えている。通信や輸送手段を整えて、孤立リスクのある地域を取り残さない施策が欠かせない。
 南海トラフ地震では異常な現象や地震発生の可能性が相対的に高まっていると評価された場合に「臨時情報」が発表される。社会経済活動を止めずに住民に警戒や注意を促すのが目的だ。能登地震もあって23年度の県民意識調査では制度の理解が進んだようだが周知されたとは言い難い。さまざまな機会を通じて広報し、より良い活用方法を探りたい。同時に水や食料、携帯トイレの7日分以上の備蓄も促進する必要がある。

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