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社説(5月11日)ものづくり県再興 政策効果検証し加速を【2024選択 静岡県知事選】

 「静岡県経済産業ビジョン2022~25」は本年度、後半に入った。ビジョンは11年3月、「地域資源活用と新しい価値創造によるものづくり・ものづかい振興条例」制定とともに策定され、14年、18年、22年に改定された。
 11年といえば、リーマン・ショック(08年)を端緒とした経済金融危機に東日本大震災が追い打ちをかけ、経済は混迷度を増していた。川勝平太氏の知事初当選は09年。既に新産業創出を期してファルマバレー(富士山麓、先端健康産業)、フーズ・サイエンスヒルズ(中部、食品・医薬品・化成品、現フーズ・ヘルスケア)、フォトンバレー(浜松中心、光・電子技術関連産業)の集積プロジェクトが動き出していた。
 静岡県は多くの経済指標で全国シェア3%、都道府県順位で10位前後に位置する。その中で製造業が出荷額で全国4位、従業員数で3位(21年)と存在感を放つ「ものづくり県」である。それだけに、出荷額がリーマン・ショック前の水準回復にもたついている製造業の低迷は県勢に影を落とす。知事交代を機に産業振興策を検証し、有望分野は加速して再興の道を急がなければならない。
 川勝県政は、産学官や企業の枠を超えて技術やアイデアを持ち寄るオープン・イノベーション(OI)の手法で成長産業創出を目指した。17年以降、農業の「AOI[アオイ]」、茶の「ChaOI[チャオイ]」、海洋資源を活用する「MaOI[マオイ]」の各プロジェクトを事業化した。手応えがあるなら目標の上方修正も検討し、課題が見つかったなら迅速かつ柔軟に対処してほしい。
 川勝県政の15年間、静岡県経済は底力も見せた。企業立地数は全国トップ水準を維持した。1人当たり県民所得も一貫して全国上位にある。
 川勝県政スタート直前の09年6月、静岡空港が開港した。18年度の実績を踏まえた23年度目標は旅客101万人、貨物1846トンだったが、実績は51万人、36トン。活路は、観光交流主体の利用からビジネス活用への拡大しかない。
 12年には新東名高速の静岡県内区間が、21年には中部横断道全線が開通し、社会資本整備は着々と進んだ。清水港整備も併せインフラ活用の最大化が求められる。

 現行の県経済産業ビジョンは「富を生み出すイノベーション」の戦略的展開を掲げ、成長分野の産業育成と中小企業の成長促進をうたうが、政策には具体性と成果が求められることは言うまでもない。中長期的視野も大切だが、新型コロナウイルス感染症の後始末をはじめ原材料高や円安など足元の課題対応を後回しにはできない。
 コロナ感染症には、対人サービスの利用が激減した観光業や世界的なサプライチェーン(供給網)混乱による製造業の活動低下など、県内経済も大打撃を被った。回復の動きの中で生まれたデジタル化や働き方改革など生産性向上の流れを止めてはならない。
 ものづくり県であると同時に、気候温暖で交通利便性が高い本県は農林水産業や観光業などにも優位性があり「産業のデパート」と言われる。革新や新機軸は、全ての経済分野に求められ、成否は担い手確保にかかっている。
 静岡県就業構造は、女性の年代別有業率に特徴がある。20~24歳、60~64歳は全国上位である一方、30~34歳は下位にあり、育児期に非正規となる女性が多いことも特筆される。性別、年齢を問わず能力と意欲がある人材活躍へ不断に取り組むべきだ。
 この知事選は、コロナ禍の停滞から動き出したものづくり県の将来を左右すると言っても過言ではない。

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