正念場のジュビロ磐田は首位を独走する水戸ホーリーホックにアウェーでどう挑むべきか

サッカージャーナリスト河治良幸


【サッカージャーナリスト・河治良幸】
ジュビロ磐田はアウェーで、いわきFCに1-3の敗戦を喫した。これで首位の水戸ホーリーホックとの勝ち点差は13に、自動昇格の条件となる2位のジェフ千葉とも勝ち点7差となり、13試合を残して危機的な状況にあると言える。

もし勝利できても水戸との勝ち点差は10であり、一気にJ2優勝への道が開かれるわけではない。そもそもクラブが掲げた“J2優勝・J1昇格”というのは開幕前の目標であり、今は現実に向き合うことも必要だ。

ただ、水戸に限らず昇格のライバルとの勝ち点3を考えても、ここで勝ち点を落とすことは昇格争いから大きく後退することに等しい。磐田としては正念場だが、水戸に勝利するためには今出せる最大のパフォーマンスを発揮する必要がある。

その意味でも無視できないのは、ここ2試合の振り返りだ。ホームで1-4の惨敗となったブラウブリッツ秋田戦と、いわき戦で奪われた計7得点のうち、5つがセットプレーからで、ジョン・ハッチンソン監督も「今シーズンはセットプレーが試合や結果に大きく影響が出てしまっている」と嘆く。相手にそうしたチャンスを与えてしまっていることも含めて、特に中断明けの2試合に関しては攻撃と守備の両面で全く噛み合わない状況が生まれてしまっていることは大問題だ。

ディテールに言及すると切りはないが、突き詰めて言ってしまえば指揮官が掲げる“アタッキングフットボール”のクオリティが、対戦相手の分析と対策を上回れていない。そして思うように行かない状況で受けるストレスや不用意な失点、ジャッジに対する不満などいくつかの要因が重なり、そうした相手を裏返して自分たちのアドバンテージを取るどころか、本来やりたいことを半ば放棄してしまっているように映る。

ここまでポゼッションをベースとしながら、背後を狙うボールや縦に差し込むパスを織り交ぜることで、ジョルディ・クルークスと倍井謙の両翼を生かすという好循環が生まれかけていたが、3週間の中断期間でそれらが失われてしまったか。ある意味、プレシーズンに戻ってしまったような錯覚すら覚える。

いわき戦ではマンツーマンでタイトに来られただけでなく、セカンドボールをほぼ全て相手に奪われる形から、どんどんディフェンスの背後に蹴られて後手後手になった。1失点目と2失点目は確かにセットプレー絡みだったが、川島永嗣のビッグセーブに救われるなど、流れからもいつ失点してもおかしくない状況が続いていた。

2点のリードを奪われた後半途中から、磐田がボールの主導権を握って反撃に出ると、右サイドのジョルディ・クルークスも前向きに高い位置でボールを持てる局面が増えた。カウンターから1失点してしまったが、後半22分に投入された井上潮音のアシストから、同じく途中出場の角昂志郎が決めたゴールは必然性が高かった。

ハッチンソン監督も井上と角のパフォーマンスに関して「この2人に関しては来週の先発に近い」と認めたが、大事なのは2人がどういう意図を持って好転につなげたのかということだ。

井上が入る時点で、システムは4-2-1-3から4-1-2-3にチェンジし、井上とグスタボ・シルバが2シャドーという形になった。井上は中盤のなるべく高い位置でキープしながら、右サイドのクルークスと近い距離感で相手のマークを引き付けて、裏返すという効果を出した。倍井に代わり、左ウイングに入った角はサイドバックの為田大貴と縦の関係でうまく絡みながら、グスタボとの連携も生かして前向きな状況を生み出していた。

ポゼッションで大事なのはボールを持つというだけでなく、いかに周りがボール保持者に複数の選択肢を与えてあげるかということになる。マンツーマンで厳しく来られると、視野が狭くなりがちだが、だからこそ周りが積極的にヘルプして、スペースと時間を作り合っていく必要がある。いわき戦に関しては、井上と角、さらに言えばグスタボがその状況を作り出していたと言える。

次の対戦相手となる水戸は首位を走っている通り、4-4-2のコンパクトにオーガナイズされたプレスと組織的なショートカウンターを武器としており、プレー強度に関しては秋田やいわきを上回る。11得点のエース渡邉新太も危険だ。

ただし、秋田やいわきのように、徹底した対策で相手を嫌がらせるという思考ではない。いわき戦の後半に井上や角が見せたプレーは水戸戦でも大事な要素になりうるが、何より本来の良さを見直しながら、ベストパフォーマンスが出せる準備をしたい。うまく攻守を噛み合わせることができれば、1-0で勝利した第20節のアウエー千葉戦のような試合は可能だ。

ここ2試合でセットプレーから5失点というのは確かに大きな問題だが、そこばかりに意識が向いて、本来の良さを見失ってしまうのは愚の骨頂だ。この1週間、セットプレーのところも詰め直してはいるはずだが、何より本質的なところと向き合いながら、スタメン選考に関してもベストチョイスをしていってほしい。

それに伴い、スタメンの入れ替えやシステムを4-3-3あるいは3バックでスタートさせることも有効なプランになりうるが、中盤のフィルターに関してはリスクが伴う。金子大毅が累積警告で出場停止という中で、いかに攻守をオーガナイズしていくかも大事になりそうだ。
シズサカ シズサカ

タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。

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