【サッカージャーナリスト・河治良幸】
ジュビロ磐田は3連勝をかけて、アウエーの大分に乗り込む。前節のカターレ富山戦はジョルディ・クルークスが横浜F・マリノスに移籍して最初の試合ということで、期待と不安が入り混じる状況だったが、ジョン・ハッチンソン監督は右ウイングに大卒ルーキーの角昂志郎を抜擢。トップ下のグスタボ・シルバ、左サイドの倍井謙と連動性の高い攻撃を実現して、井上潮音と佐藤凌我のゴールによる2-0の勝利に結びつけた。
ハッチンソン監督は大分戦のキーポイントに関して「自分たちのフットボールをプレーする権利を得ることで、相手陣地で試合を進めていく」と語った。”権利を得る”という言葉は分かりやすく言えば、自分たちらしくボールを握って攻め続けるに、その前提になるバトルで上回っていくことだ。その第一条件がボールを奪う守備だ。ハードワークをベースに前から守備をして、できるだけ高い位置でボールを奪って、そのまま良い攻撃に繋げていく。
そこからショートパスを繋ぐだけでなく、相手の背後を狙うことで、さらに全体を押し上げる。もちろん一発の縦パスで裏を取れて、アタッカーの選手たちがゴールを奪えるのが理想ではあるが、それができなくても、自分たちのリズムとペースに持ち込んで、連続性のある攻撃に繋げられるのだ。こうしたスタイルの宿命として、相手側にも磐田陣内に向けてロングボールを蹴られやすいが、ディフェンスラインやGKが集中力高くカバーすることで、ずるずる下がらないことが生命線になる。
磐田は4月25日のホーム大分戦で0-3の敗戦を喫したが、立ち上がりにミスパスを拾われたところから、野村直輝のゴールで失点。さらにCKをセンターバックのデルランに決められて、トドメの3失点目はセットプレーからのオウンゴールだった。ここ最近、磐田はアウエーに首位の水戸ホーリーホックに3-1の勝利、ホームの富山戦で連勝を飾っているが、その前にホームでブラウブリッツ秋田に1-4の大敗、さらにアウエーでいわきにも3-1で敗れており、7失点のうち5失点がセットプレー絡みだった。
宇津元伸弥のような良質なキッカーがおり、センターバック陣の高さを生かしてくる大分のセットプレーは非常に危険だが、磐田も水戸戦、富山戦で守備に手応えは掴んでおり、そう簡単にやられることはないだろう。もちろんセットプレーも大事だが、ベースとしては試合の主導権を握って”プレーする権利を得る”ことが、アウエーでの勝利に求められるだろう。
「うちの選手たちが万が一にも、(簡単に)勝てると思って試合に臨めば、痛い目にあうと思う」(ハッチンソン監督)
大分は前回対戦の時に、チームを片野坂知宏前監督は契約解除となり、竹中穣ヘッドコーチが昇格する形で引き継いだ。新監督の初陣となったアウエーのいわき戦は4-0で敗れたが、ハッチンソン監督は「あの試合からは分析しにくい」と認めており、そこから1週間の準備で、大分も少なからず変化があるはず。ただ、確実なところとして攻守の切り替えの早さというのはJ2の中でも大分の強みになるので、そこで相手に裏返されないようにしていくことができるか。
おそらく3-4-2-1という形を取ってくるが、就任2試合目ということで選手の起用や形の変化も想定に入れながら、ピッチに送り出された選手たちがいかに状況を判断して、チームで共有していくか。その意味で夏に加入した井上の存在は大きい。水戸戦と富山戦でも、正確なボール捌きで相手の守備をいなしながら、うまく攻撃ルートを作って周囲の選手たちを前向きにさせていた。大分にも、MF榊原彗悟というハッチンソン監督のマリノス時代の教え子がいるが、中盤のところで磐田が上回れれば、相手陣内で倍井、グスタボ、角が流動性を発揮しながら仕掛けや背後への飛び出しを繰り出すことができるだろう。
もう一人、注目したいのが移籍期間の最終日に、J1のファジアーノ岡山から加入したブラウンノア賢信だ。MF登録になっているが、攻撃的なポジションであればどこでもこなすことができる。富山戦の翌日に行われたJFLヴィアティン三重との練習試合でも、タイ代表FWポラメート・アーウィライのクロスを豪快なダイレクトシュートでゴールしていた。189cmの長身ながらスピードを生かしたラインブレイクを得意としており、ハッチンソン監督からはウイングの起用が多くなると伝えている。
「やっぱり昇格するためにはゴール、アシストでチームに貢献しないといけないので。そこにこだわってやりたい」とブラウンノア。沼津時代の同僚だったFW渡邉りょうとのタッグも楽しみだが、大分戦で移籍初ゴールはあるのか。もちろんマテウス・ペイショットやポラメートの奮起にも期待したいが、どんな形であっても勝ち点3を掴み、代表ウィークによる中断期間を前に、残り10試合に向けて、昇格圏に食い込む足がかりを掴みたい。