シーズン終盤を迎えた明治安田J2リーグで、ジュビロ磐田が大きな決断を下した。ジョン・ハッチンソン監督が退任、U-18を率いていた安間貴義監督を昇格させたのだ。現在チームは8位。自動昇格圏の2位以内に食い込むには厳しい状況にあるが、6位までに与えられる昇格プレーオフも含めた最大で9試合戦いに向けて、クラブは最後の賭けに出た。
「替えるリスクと替えないリスクを比べ、替えるリスクを取った。苦渋の決断であり、責任は私を含めクラブが負う」

藤田SDはそう言葉を選びながら語った。今回の監督交代について「最終的には現状の結果判断」と説明する。2-1で敗れたアウエーの藤枝戦の後からクラブ内での議論というのは進んでいたようだが、2-0から4失点で逆転負けした大宮戦が決定的となった。ただ、結果だけで判断したわけではないことを藤田SDは強調しており、内容面も加味して、ここから昇格のためにリスタートを切れるタイミングと見たようだ。
クラブのプレーモデルやフィロソフィーは「監督が替わっても揺るがない」(藤田SD)ことを前提として、ハッチンソン前監督が掲げてきた「アクションフットボール」を土台としながら、守備面やビルドアップの整備など、より勝点に直結するアプローチを求めて安間監督を選んだ。シーズンの最終盤に向けて、新監督は外部からではなく、ここまで磐田のフットボールに直接接していること条件に、これまでジョン(ハッチンソン前監督)を支えてきた久藤清一コーチやU-15の服部年宏監督も候補にあがったが、最終的には安間監督の昇格になった。

また残り試合が少なくなる中で、チームの順位が下がったり、直接対決の大宮戦に敗れたことで、選手たちが「昇格」という言葉を、自信を持って言いにくくなっている状況を察しており、「昇格という言葉を口に出して、自信を持って戦うことが大切」と語る安間監督が、自らそのワードを明確に宣言することで、改めて目標に向かう目線を揃えたい考えを表した。
新体制を支える存在として注目されるのが、9年ぶりに磐田へ復帰した志垣良コーチだ。FC大阪や山口で堅実な守備を構築した実績を持ち、安間監督の攻守両面における挑戦を補佐する役割を担う。「積極的に戦うフットボール」を掲げながら、守備構築にも長けた志垣コーチの存在は、安間監督が修正したい課題に向き合うには持ってこいの人材と言え。
一方、安間監督の昇格で空いたU-18監督には、西野泰正コーチが就任。藤田SDは「U-18の監督をトップに昇格させたことに関しての責任というのは、ものすごくある」と認めながらも、ここからのプレミアリーグ昇格に向けた戦いだけでなく、トップより長い時間の視野に立った編成を重視し、熟考の末に決断したようだ。
見方を変えると、安間監督の指導で大きく成長し、来年のトップ昇格を勝ち取ったDF甲斐佑蒼やMF石塚蓮歩にリーグ戦のチャンスが回ってくる可能性もある。特に、30日の練習に参加していた石塚に関して安間監督は「今どき180cmを超えて、右足・左足・頭で得点できて、さらにドリブルでも仕掛けられる選手はなかなかいません」と期待を寄せている。
さっそく甲府戦のスタメンやベンチメンバーが気になるが、これまでトップチームで選手を見てきた久藤清一コーチや川口能活GKコーチの意見を参考にしながら、前監督の序列にこだわらず、練習で見極めていきたい考えを示している。その中で、これまで頼れるジョーカーがいなかったことを課題に挙げており、スタメンで使いたいような選手でも、チームの90分の戦いを考えてジョーカーに回ってもらう可能性も示唆した。
安間監督も基本方針は変えないが、1試合1試合がカップ戦の決勝のようになる、ここからの戦いはきれいごとではない勝負強さも求められてくる。チームリーダーの一人である上原力也は「監督交代を受けて責任を感じている。自分たちがもっと体現しなければならなかった」と悔しさをにじませた。そのうえで「残り7試合、1試合1試合を決勝のつもりで戦う」と覚悟を口にする。
磐田は残り7試合で、上位との直接対決も控える。自動昇格は厳しい状況だが、勝点差を詰めればプレーオフ圏への滑り込みは十分に可能だ。プレーオフを勝ち抜くには、失点の軽減と試合運びの安定が欠かせない。クラブがあえてリスクを取ってでも体制を変えたのは、その一点にある。藤田SDは「勝つだけでいいクラブではない。ジュビロのフットボールに魅力を感じてもらうことも大事」と強調する。しかし同時に、結果が伴わなければ昇格はつかめない。
クラブは昇格を最優先に、監督交代という決断に踏み出した。選手たちはその意図を受け止め、言葉よりも結果で示すしかない。8位からの逆転昇格は容易ではない。だが、クラブも監督も選手も、誰一人として諦めてはいない。磐田の2025年シーズンは、ここからが本当の正念場だ。