自己紹介で「慣れ」より重要なこととは?印象に残る自己紹介のコツ
自己紹介は、まず準備から!
入学、入社、クラス替えに部署異動。新しい出会いも多くて、自己紹介をする機会が増える春。今回は、「印象に残る自己紹介の仕方」について、長崎大学准教授でスピーチコンサルタントの矢野香さんに、SBSアナウンサー牧野克彦がお話をうかがいました。牧野:矢野さんには前回、失言をしないための対策を教えていただき、大変ためになりました。今回は自己紹介についてです。苦手意識をもっている人がリスナーにも多いようなのですが、どうしてでしょうか?
矢野:自己紹介は、心理学でいう「自己開示」だからですね。つまり、自己紹介は、名前、出身地、趣味、家族構成などの自分のプライベートな情報を「自己開示」しなければなりません。これにはどうしても、得意な人、不得意な人がでてきてしまいます。
牧野:克服するには慣れの問題でしょうか?
矢野:いえ実は準備の問題なんです。自己紹介が不得意な人は、「この自己紹介で”相手にどう思われるかな?”” 好印象を与えられているかな?”」と判断を相手に委ねてしまう。つまり「受け身」の状態。これだと自分でコントロールができないため苦手意識をもってしまいます。一方、得意な人は「この自己紹介で”相手に自分をこう思わせたい”」と主体的に見られるような「準備」をしているんですよ。
牧野:なるほど! 自己紹介を振られたときに、「どうしよう。何を話そう、嫌だな~」と思っている時点でちょっと負けてますね。
矢野:そうなんです。受け身になってしまっているんです。だから、どう思わせようかと攻めてほしいですね。
牧野:まずは準備が必要と。コツはどういうところでしょうか?
矢野:コツは「自己紹介を目的にしない」ということです。最終目的は自分の紹介じゃない。自己紹介は「次につなげるためのもの」なんです。例えば、新しい部署に異動したとします。名前を憶えてもらうことだけが目的ではなく、次の部署で「こんな仕事をしたい」という希望があるとしたら、最終目的は希望の仕事をさせてもらうことですよね。だとしたら、趣味や前の部署での経験を言っている場合じゃないですよね?
牧野:確かにそうですね。つい言いがちですけど……。
矢野:自分のデータを言う自己紹介、これを私は警察の取り調べといっているんですが(笑)、そんなデータや事実を言っている場合ではありません。そうではなく、「私は、○○に関わる仕事ができるんじゃないかと期待していて、この部署への異動をうれしく思っています」と言っておかないとダメですよね。
牧野:あとは、「自分は○○が得意です」とアピールしておいた方がいいですよね。
矢野:「新しいことにチャレンジするのは大好きです」など。何の目的のために自分はここで自己紹介をするのかと、どんな次につなげるためなのかを明確にして準備をしておくんです。
牧野:確かにビジネスパートナーになる目的の人と、一緒に食事に行ける仲になる目的の人では、自己紹介の中身が完全に変わってきますよね。
矢野:後者の場合は、一緒に食事をしたら楽しそうと思われる自己紹介をする必要がありますよね。
印象に残る自己紹介のコツ
牧野:まずはゴールの設定が重要そうですね。あと自己紹介で印象に残ることも大事だと思うのですが、なかなかハードルが高いです。どんな自己紹介だと印象に残るのでしょうか?矢野:自分のCM、宣伝だと考えて欲しいです。印象に残るためには、相手に「〇〇さんはこういう人」と覚えてもらうことが大事だからです。「私はこういう人です」と自分にキャッチフレーズを作ることがお勧めです。今までですごく上手だった方の例をご紹介しますね。新入社員の20代の女性でしたが、ショートカットで体育会系の方で、名前がAさんだとします。Aさんは「『Yes』か『はい』のAです!よろしくお願いします!」と言ったんです。私はNoとは言いませんという意味ですね。大きな声で元気に言うので、じゃあAさんにやってみてもらおうか、これも頼んでみようかと、どんどんチャンスが来て、その後ご活躍されていました。
牧野:新入社員は「断りません」というキャッチフレーズでいくのもなかなか得策ですね。キャッチフレーズといえば、日本ハムの新庄剛志監督が就任会見のときに「ビッグボスです」と言っていましたが、これはキャッチフレーズをつけたようなことですよね?
矢野:そうですね、上手いですね。ビッグボスといえば、あるテレビ番組の依頼で新庄監督の話し方を心理学的に分析したことがあり、「『ビッグボス』などの印象的な言葉を前もって準備して、意図的にいろいろ考えていらっしゃるはず」とお話しました。放送当日はご本人も番組にゲスト出演されていたのですが、監督ご本人が「心がけている。けっこう前から」と自己表現を準備していることを認めていらっしゃいました。やはり上手い人は準備していますね。
牧野:相手に染み込んでいく言葉をいくつか用意しておいて、フリートークの中にもそれを織り交ぜていくんですね。
矢野:新庄監督は、これまでも年間の話題になった言葉「ユーキャン新語・流行語大賞」にも何回も候補としてノミネートされていますし言葉の作り方がうまいですよね。
牧野:キャッチフレーズをつける、キラーフレーズを用意しておくのはひとつのワザですね。他にはどういうワザがありますか?
謙虚な日本人におすすめのPRテク
矢野:日本人のためのワザがあります。日本人独特なんですが、謙虚なんですよ。牧野:あー、遠慮しがちですね。私なんてとんでもない……という。
矢野:そうです。そのため、自分で自分のPRをするという自己紹介がしづらいんです。そういうときは、第三者の評価を使うんです。 例えば「前の部署の上司からは、細かい準備、丁寧さがありがたいよと言われていました」「友達からは、その笑顔で元気をもらえると言われます」とか。
牧野:いやらしさも減りますね。あまり自分で自分のことをガンガン言ってしまうと、嫌なやつだなと日本の社会だと思われがちですけど。
矢野:それだと、好印象とは正反対になってしまいますよね。
牧野:自分の出し加減がなかなか難しいところがあって、私はこれができますと言い切っていいのかなという人は多いと思います。
矢野:面接などの自己紹介なら自己PRもしやすいと思いますが、ちょっとした年度が替わるご挨拶にこれはちょっとな......と躊躇する場合は、「第三者に言われています」はおすすめです。
牧野:分かりました! 人に言ってもらっていることにしましょう(笑)。他にはありますか?
自分の「売りポイント」を伝える!
矢野:あとは、メリットですね。相手にとって自分がどんなメリットになるのか。「○○さんはこういう人」と相手に覚えてもらうのが大事とお伝えしましたが、それがメリットだとなお良し、なんです。例えば、「私はランチの食べ歩きが趣味で、会社周辺の美味しいお店はほとんど知っています」と言うと、この人と話してみたいと思うでしょうし、「ゲストが来るから、どこのランチにつれていけばいいか聞こう」とか、そういう風に覚えてもらえます。牧野:相手視点で考えると分かりやすですね。今日聞いているお客さん、それから相手の人は自分に対して何を求めてくるのかなという視点から逆算していくのもアリですね!
矢野:それもいいですね。
牧野:ここまで、自己紹介のテクニックをいろいろ教えていただきました。面接のとき、新しい場でさらっとした挨拶のときなど状況によって変えていくことは必要ですか?
矢野:大事ですよね。「自己紹介を目的にしない、次につなげるためのもの」と先ほどお伝えしましたが、要するに、「この人と、もっとしゃべってみたい」と相手に思っていただきたいんです。CMは短いじゃないですか。ダラダラと自己紹介されると長いんです。CM自体は短くて「この続きはWEBで検索!」というような終わり方がありますよね。自己紹介でも同じです。まず自己紹介で興味を持ってもらい、「あとはゆっくり場面を変えてお茶でもしながら聞かせてね」のように、自己紹介で全部話さないのも大事ですよね。
牧野:ちょい出ししていく!なるほど勉強になります。私が最近名刺交換した人の中で、自己紹介はさらっと済まされるんですが、「名刺の中にQRコードが入っているのでよかったら読み取って」と。読み取ってみたらその人のデータがずらっと出てきたんです。すごいなと!
矢野:まさにCMですね。
牧野:だから、名刺も交えて「続きはQRコードから!」と、自己紹介の中に織り交ぜると面白いかもしれませんね。今回もたくさんヒントを頂きました。ありがとうございました!
今回お話をうかがったのは……矢野香さん
長崎大学准教授・スピーチコンサルタント。NHK キャスター歴 17年、主にニュース報道番組を担当。在局中からスピーチ研究に取り組み、博士号取得。経営者、政治家などエグゼクティブに「信頼を勝ち取る正統派スピーチ」を伝授。著書に『その話し方では軽すぎます!』(すばる舎) 『一分で一生の信頼を勝ち取る法』(ダイヤモンド社) などベストセラー多数。
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