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取り壊された戦争遺跡を音声ガイド 島田・牛尾実験所跡 若者の声と技術、郷土史紡ぐ

 取り壊された旧海軍の極秘研究実験所跡の歴史を若者の声と現代技術で語り継ぐ―。太平洋戦争中に島田市に存在し、強力電波兵器を研究した戦争遺跡「第二海軍技術廠(しょう)牛尾実験所跡」をはじめ、歴史遺産を後世に伝えようと、島田近代遺産学会(新間雅巳代表)が地元高校生やベンチャー企業と協力し、音声ガイドを制作した。跡地近くにQRコード付き看板を設け、スマートフォンで読み込むと、いつでもどこでも歴史に耳を傾けることができる。

看板のQRコードをスマートフォンで読み込み、音声ガイドを確認する島田近代遺産学会のメンバーら=3月下旬、島田市牛尾
看板のQRコードをスマートフォンで読み込み、音声ガイドを確認する島田近代遺産学会のメンバーら=3月下旬、島田市牛尾

 同実験所跡は2015年に国による大井川の河道拡幅工事で取り壊された。近くに説明板はあったものの、「戦争遺跡の風化が危惧されていた」(新間代表)という。そんな中、静岡市のベンチャー企業「Otono」が展開する位置情報を活用した音声コンテンツを知り、島田市の補助金などを活用して事業を計画した。
 同学会メンバーで、島田樟誠高演劇部顧問の小林大治郎教諭(61)が部員に音声ガイド役を任せた。自身も郷土史を研究する小林教諭は「戦後77年が過ぎ語り部が減る中、若い高校生が語り継ぐ役目を果たしてくれれば歴史を紡いでいける」と言葉に力を込める。
 音声ガイドは計6カ所を紹介する。同じく戦争遺跡の「島田実験所跡」、島田宿大井川川越遺跡や大井川鉄道合格駅なども盛り込み、親しみやすくした。案内役の高校生と、同学会メンバーや市博物館の学芸員らによる掛け合い形式で、2~4分程度にまとめた。ガイド役を務め、今春同校を卒業した大野由愛さん(19)は「聞きやすいよう自然な話し方を心がけた。島田の歴史を知る機会にもなった」と話す。
 同学会は市博物館や市観光協会とも協力し、QRコード入りのチラシを市内観光施設などで配布する予定。新間代表(57)は「新たな歴史の証言が見つかることにもつながれば」と期待を込める。

 第二海軍技術廠(しょう)牛尾実験所 現在の新東海製紙島田工場敷地内にあった「島田実験所」の疎開先として、終戦間際に建設が進んだ。建設途中に電源室のアーチ型屋根が倒壊する事故が起こり、そのまま終戦を迎えた。
 島田実験所には、後にノーベル物理学賞を受賞する湯川秀樹や朝永振一郎ら第一線の科学者も出入りした。「マグネトロン(磁電管)」で強力な電波を発生させ、敵飛行機のエンジンや計器を故障させる研究などを行った。東京から日帰りが可能な距離に位置し、大井川上流にはダムがあり、実験に必要な電力が確保できたという。

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