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記憶、永遠に(1)縮小する遺族会 解散後も「心境は複雑」

 「やっぱり、粗末にはできないですよ」

地元の忠魂碑を見上げる西宮恂夫さん。遺族会は解散しても戦没者の追悼は続けていく=7月中旬、西伊豆町安良里の多爾夜神社
地元の忠魂碑を見上げる西宮恂夫さん。遺族会は解散しても戦没者の追悼は続けていく=7月中旬、西伊豆町安良里の多爾夜神社

 西伊豆町安良里の多爾夜(たにや)神社。太平洋戦争の戦没者らの名前を刻む忠魂碑を見上げ、近くに住む西宮恂夫さん(76)がポツリとつぶやいた。
 町遺族会が解散したのは3月末。西宮さんは最後の会長で、同会安良里支部長だった。「自分としては、まだまだ遺族会活動を続けたかった。これからも忠魂碑を磨いて、慰霊を続けたい」
 解散の要因は会員の高齢化にある。町内4支部のうち、まず宇久須と仁科の2支部が2019年に解散。残された安良里、田子の2支部で「頑張ってみようか」とも話し合ったが、役員のなり手不足も顕著で、最終的に追随する形となった。
 「特別弔慰金の受給資格が厳格化されてきた影響もあるのか、遺族会の会員も減ってきていた」と西宮さん。安良里支部の会員は80代が中心で「私が一番若いぐらいです」と苦笑する。足腰の弱い高齢者には高さのある忠魂碑の清掃は難しく、一部の人に負担が集中しがちだった。
 会員減少や高齢化は西伊豆町に限らない。
 「各市町の遺族会役員は苦労されていると思う。『オラが辞めたら解散になるよ』という話も耳に入ってくる」。県遺族会長の杉山英夫さん(82)=静岡市駿河区=は、そう打ち明ける。「子から孫へ。本来は家々で戦没者をいつまでもまつっていくのが基本。でも、核家族化で慰霊が忘れ去られるような状況になっている」
 県遺族会は戦争の記憶を風化させまいと18年に戦没者の孫、ひ孫世代を主眼に青年部を立ち上げた。県遺族会を構成する県内各地の遺族会のうち、8団体にも青年部が誕生。遺族に限定せず、平和活動の賛同者に門戸を広げる団体も出始めたという。ただ「実質的な活動はまだ」(杉山さん)なのが実情だ。
 西伊豆町の遺族会長だった西宮さんは、会を解散した今も複雑な心境でいる。「戦没者のおかげで現在の日本があることは間違いない。平和がなければ、繁栄もない」。そして自問する。「組織があって行動を起こすことで、戦争で命を落とした人がいたことを次世代へ伝えやすくなるのではないだろうか」
     ◇
 太平洋戦争の終結から75年。戦争体験者が高齢化する中、記憶をどう後世につなげていくのか。静岡県内の現状を探った。

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