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水窪の戦没者慰霊大祭廃止 後継者不在、高齢化で負担大きく 遺族会「仕方ない」

 浜松市天竜区水窪町の町遺族会は5月、終戦直後からコロナ禍の前まで毎年6月に実施していた慰霊大祭の廃止を決めた。会員の減少で会場を準備する負担が大きくなり、毎年の開催が困難となったためだ。ことしの開催予定日だった今月2日は慰霊塔を開扉し、遺族関係者が訪れてそれぞれ追悼した。会員は「時代の流れ。後継者がいないことは仕方がない」と受け止める。

慰霊塔の前に集まる水窪町遺族会会員=5月下旬、浜松市天竜区水窪町
慰霊塔の前に集まる水窪町遺族会会員=5月下旬、浜松市天竜区水窪町

 慰霊大祭は日清戦争以降の戦争で命を失った旧水窪町出身の296柱の英霊に哀悼の意をささげている。同遺族会は1946年に設立され、創設当時の会員は約300人いたが、現在は約120人と減少する一方だ。5月中旬に開かれた遺族会の評議委員会で、慰霊大祭の廃止案が議題に上がり、反対意見はなかった。8月15日の終戦記念日は、同町の慰霊塔で有志の追悼を継続する。
 慰霊大祭の廃止が決まり、評議員の一人は「会場の準備が本当に大変で、若い人も集まらない状況。むしろ長く継続できた方ではないか」と冷静に現状を受け止める。遺族会によると、準備には2日かかる。祭壇の設営や招待状の作成、供物の用意など高齢化が進む会員にとって負担が大きかった。公的な補助金もなく、寄付金を中心に運営していた。別の評議員は「ご先祖様が国を守ってくれたおかげで今がある。慰霊大祭はなくなってしまうが、その思いは忘れない」と話した。
 同遺族会の知久勝宣会長(81)は「廃止はやむを得なかった。だが、慰霊塔は守らなければいけないと思っている」と先祖への変わらない思いを強調した。
 市町村合併で天竜区になる前の旧市町村単位で活動しているのは同遺族会のみ。市などによると、旧市町の天竜、佐久間、春野各地区の遺族会は既に活動を止めた。一部地域では、集落規模の有志で慰霊碑の清掃や管理をしている。龍山地区の遺族会も活動を止めているが、遺児を中心とする住民有志が「戦没者を慰霊する会」として、活動規模を縮小しながら追悼行事を引き継いでいる。

 静岡県内遺族会 4年で7000世帯減少
 県遺族会によると、県内の遺族会は44支部あり、会員世帯数は2022年12月末時点で1万5720世帯。19年時点では2万2828世帯で、この4年間で約7千世帯減少した。会員の高齢化で減少に歯止めがきかず、戦没者への慰霊をどのように継続していくかが課題となっている。
 浜松市天竜区龍山町では、町遺族会が2018年3月に廃止された後、翌月の4月に住民有志が龍山地区で戦没者を慰霊する会を新たに発足させた。遺児7人と戦没者の親戚1人の計8人で構成し、毎年6月に実施する慰霊祭の運営や慰霊碑の管理を担っている。
 同会事務局の松下和明さん(69)は「会の活動を次の世代へどのように継続させていくか常に悩んでいる。自治体やNPO法人と協力していけないか考えている」と話す。

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