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自動翻訳機が普及しても、英語を学ぶ必要はあるのか?

これからの時代も語学は本当に必要?

近年、自動翻訳機や通訳機は目まぐるしい進化をとげています。こんな時代になっても、外国語を学ぶ必要はあるのでしょうか? 静岡聖光学院で偏差値にとらわれない、多読多聴で英語脳を鍛えあげる最先端の英語教育に取り組んでらっしゃる英語教諭、西山哲郎先生にお話をうかがいました。
※6月22日にSBSラジオIPPOで放送したものを編集しています。
静岡聖光学院、授業風景
牧野アナ:
実は私は、自動翻訳機が普及してきたら、もう語学を学ぶ必要がないんじゃないかと思っていた人間なんですが、そんなことはないんでしょうか?

西山先生:確かに、翻訳機能のついたアプリなどもかなり精度が上がり、便利になってきていますよね。ただ、僕自身は、どんなにそういった技術が進歩しても人類は語学を学ぶ必要があると思っています。利便性だけで言うと、翻訳機があれば必要ないと思うかもしれませんが、今牧野さんと話をして、うまく会話ができているのは、心が通っているからだと思っています。外国人と会話するときにも心が通っているか、というのが語学学習の最上位の目標ではないかと思っていて、それが果たしてAIでできることなのか?深く考える必要があります。

本来、語学学習は「人と心を通わせる」ためのもの

西山先生:僕は語学教師をやっているなかで、心を通わせながらワクワクするものをインプットしたり、アウトプットしたりするということを子どもたちに取り組んでほしいです。「人と心を通わせる」ことを目標にした語学教育を学校でできれば、子どもたちは「語学を学ぶ必要がある」と思って中学・高校生活を過ごしてくれるのではないかなと。

でも残念ながら日本の学校で語学を学ぶ目的は、ただ単にテストで高得点を取るだったり、受験に合格するといったものが大半で、語学習得の本来の楽しさや奥深さが忘れ去られています。内田樹さんが「人間が教育を受けるのは、『自己利益を増大させるためである』という考え方そのものが現代教育を損なっている」とおっしゃっていますが、その『自己利益を増大させる』という考え方が、語学を学ぶ本質的な喜びを子どもたちから奪っているような気がしてしまい……。目の前にいる生徒たちとは少なくとも「英語って楽しい」という原点を共有していければといつも考えています。

僕は今中国語を勉強しているのですが、なぜ勉強しているのかというと、コロナが収まってまた中国の方が日本に来てくれたときに、中国語で話したい、心を通わせたいんです。そして、中国の方々にまた日本に来たいと思ってもらいたいから。そういったコミュニケーションは自分の人生を豊かにしてくれると思うからです。それを子どもたちに伝えていければいいなと思っています。

なぜ日本では、「ワクワクする英語教育」ができないのか

牧野アナ:ワクワクする英語教育が、なかなか日本で実践されていない……。これは今の教育の枠組みのなかでは、やりたくてもできない理由があるのでしょうか?

西山先生:まだ低年齢の小・中学生はみずみずしい感性を持っていて楽しんで学べるのですが、高校に進学すると受験勉強のために英語を学ぶことになってしまう。年齢を重ねるにつれ、得点をとるということで英語学習をとらえている傾向があります。

実は最近、面白い体験をしました。eスポーツで世界中の子どもたちと英語でプレイする、というプログラムに関わらせてもらう機会があったんですが、そこで小学生がゲームをしたいから英語を使いたくて仕方ない、という場面を見たんです! これも心が通う体験のひとつではないかなと思いました。

牧野アナ:面白そうですね! そういう目的があると、子どもたちって頑張れるんですね。

「好き」から広がる子どもの可能性を伸ばしてあげたい

西山先生:子どもたちはとにかく楽しいことをやりたい! 「楽しくないんじゃないか?」と思わせてしまうと、学んでくれないんです。僕はいつも言っているんですけど、自分の好きが一番、人の好きも一番! 「好き」っていう気持ちを学校とか社会でも大事にしていく。

ひとつのことが大好きでのめり込む経験をしていくと、その子の可能性は確実に大きくなっていきます。語学はそれを引き出すツールだと思っています。日本語だけだと、海外のメディアの情報は取り辛いけれど、英語ができればそれも手に入る! eスポーツも英語ができた方が、外国人とも対戦できる。

20年後の子どもたちの可能性が広がるように、扉を開いてあげられる可能性があるなら、心が通う語学教育を続けていきたいです。

牧野アナ:今はオンラインで世界とも繋がれますし、ゲームを通してだとすごく楽しそうです! ちなみにそれは英語でゲームをしながら、みんなで実況してるんですか?

西山先生:インストラクターの方に、プレイしながら「行け!あっちだ!」とか、使う英語を事前に教えてもらうんです。とても楽しそうに英語を使っていて! 日頃から意識してきたつもりですが、教室という閉じられた空間のなかでそういう心の通う英語教育ができていなかったんだな……とゲームをやってる子どもたちを見て考えさせられました。

牧野アナ:子どもたちが好きなものと英語の組み合わせを考えられたらいいですね。先生は映画も学習に取り入れているんですよね?

映画やドラマ、英語の番組を効果的に活用するには

西山先生:映画を使ってリスニングのトレーニングをしているんですが、子どもたちはいい反応をしてくれますよ。字幕なしでの映画のリスニングってなかなか難しいじゃないですか。でももともとカタカナ英語を禁止にしているので、日本で英語学習用に作られたものではない、英語の映画やドラマに生の教材として触れると、中学1年生でも、だいぶ聞き取れるようになり、かなり発音も良くなってきています。

牧野アナ:英語習得のためには面白い映画、ドラマを英語で見るのがいいということですね。僕なんかちんぷんかんぷんで何を言ってるのか全くわからないですけど、そんなレベルからでも見ておいた方がいいですか?

西山先生:学び始めはまだ習っていないことも多いので、レベルに合わせたものを観ることは大事です。例えば、私たちが昔から知っている「セサミストリート」は非常に内容が濃い教育番組で、実は英語自体も結構難しいんです。ただ、日本語版と英語版、両方用意されているので、まず日本語版を観ておいて、あとから英語版を観るのもいいと思います。

レベルにあったものから、と言いましたが、子どもたちの知性を大人が決めつけてもダメ。基本はレベルにあったものがいいということを理解したうえで、ときには少し背伸びしたものに触れさせることも大事だと思います。子どもたちは楽しいと思ったり、君たちならできるよ!と励まされるとどんどん意欲的になるので、生の素材を早い段階で使うといいと思います。そのための動画発掘が僕の趣味でもあります。

牧野アナ:「楽しい」と「勉強」をくっつけているんですね。

西山先生:自分がそう学んできたので、同じように教えてあげたいというのがあります。

牧野アナ:そしてその先には翻訳機などなしで、生の会話が生まれてくるということですね。

西山先生:もちろん場面によってはあってもいいと思いますが、やっぱり生身の人間同士、自分が学んだ言葉が相手に通じるのか、心が通うのか、そういう体験を小・中学生、高校生のうちからしてほしい。そして、次の世代にも「心が通う英語教育」を受け継ぎシフトしていってほしいです。
 
今回お話をうかがったのは……西山哲郎先生
静岡聖光学院、英語教諭。前任校、大阪府の香里ヌヴェール学院小学校では41歳にして校長を務める。香里ヌヴェール学院小学校では全授業の6割を英語化するなど、日本の子どもたちの持つ可能性を最大化すべく英語改革を行ってきた。2021年春から聖光学院に赴任し、「偏差値教育にとらわれない、体験を重視する英語教育」をモットーに中学一年生から英語脳を作り上げる、多読を学ばせるなど、従来の英語教育とは一線を画した授業を行っている。

 

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