
日本と海外のサブスク事情
柴:日本では、2015年にApple MusicやLINE MUSIC、2016年にSpotifyがスタートしました。牧野:特に、アメリカではサブスクの売り上げが大きいんですよね。
柴:アメリカでは、もはや80%以上がサブスクを経由した売り上げになっています。世界全体でも65%ほどです。逆に、日本は25%程度と非常に少ないですね。
牧野:日本はまだまだCD買ってる人が多いということですね。
サブスク、1回再生=〇円
牧野:川本真琴さんのツイート「サブスクでの利益がどれだけ少ないかを知ってほしい」が話題となりました。サブスクのメリット・デメリットはどんな点ですか?柴:すでにサブスクが主流になっている海外では、リスナーだけではなくミュージシャンにとってもメリットがあります。市場全体が大きくなっていて、きちんと収益を受け取ることができるんです。ただ、日本ではまだまだCDの売り上げが大きく、それに比べると収益が低いんです。今は、ビジネスモデル全体が変わりゆく過渡期にあります。
牧野:ちなみに、サブスクで1回再生されると、アーティストにどれくらい入るんですか?
柴:公式には何も発表されていません。ミュージシャンがツイッターやブログなどで発信している情報によると、1回再生されると0.3〜1円程度といわれています。
牧野:そうすると「収益が低いな」という印象になるかもしれませんね。
新しい音楽活動 副業的に自分でサブスク配信
牧野:サブスクの普及によって、これまでなかなか世に出て来られなかった人たち、例えばインスト系のアーティストさんたちも活躍されているんですよね?柴:YouTube動画に無料で使えるBGMを作って、それをサブスクに配信するという新しい形の音楽活動があります。楽曲はサブスクに登録していれば聞けるんですが、再生回数に応じて収益が入ってきます。年間数百万から1000万円以上という、メジャーレーベル(レコード会社)に所属しているアーティストよりも収益を得ている方もいます。
牧野:(ラジオ番組の中で)「しゃろう」さんという方の曲が流れてきましたが、2014年から会社員をしながらフリーのBGMを作ってらっしゃるんですね。
柴:「独立系アーティスト」といって、レコード会社に所属せず、自分でサブスクに楽曲を登録して、配信することができます。ミュージシャンを目指す場合、かつてはオーディションに受かるなどして「プロ」になる必要がありました。今は副業的に音楽配信して収益を得ることもできますし、もちろん従来のようにレコード会社や事務所のサポートを受けて、大規模な活動をすることもできます。ですので、ミュージシャンにとって、サブスクは利益が少ないというより「構造が変わっている」というのが、正しい見方なのかなと思っています。
形あるレコードやカセット、CDの良さ
牧野:一方で、レコードやカセットなどのアナログ媒体も再び注目されています。このあたりの要因は何でしょうか。柴:サブスクがより主流になっているアメリカでも、レコードは大幅に伸びています。なぜかというと、サブスクは手元にモノが残らない。かつ、アーティストに対して応援すること(応援消費)ができない。補完する役割として、アナログな媒体であるレコードやカセットが存在感を増しています。アメリカではもはや、CDの売り上げをレコードの売り上げが上回っています。
牧野:手元に持っておきたいという気持ちはあるものなんですね。日本のCDの売上を見ると、アイドルのCDはファンが買って手元に置いておきたいので売れてるんですよね。
今後の音楽業界は
牧野:今後のサブスク、どういうサービスが登場するでしょうか?柴:SNSと結びついたり、音楽の趣味が近い人同士を結びつけるマッチングアプリ的なサービスがあったらおもしろいなと思います。そうすると、自分ひとりで聴いているだけでなく、同じアーティストを応援しているファン同士のつながりがより密接に生まれます。
牧野:一方で、CDなどアナログも残っていくと柴さんは見ていますか?
柴:そうですね。より「グッズ化」して、Tシャツとセットになったり、写真やブックレットが付く豪華版・限定版が主流になっていくんじゃないかなと思います。
牧野:NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)はいかがでしょうか。電子化したデザインを配布するとか、そういう動きもありますよね。
柴:おもしろいなと思います。ただ、NFTは基本的にたくさん流通しないものなので、限定版のファンアイテムの一つになっていくんじゃないかなと思います。
牧野:まさに過渡期にある音楽シーン、可能性を感じますし楽しいなと思います。今回は、ありがとうございました。
今回お話をうかがったのは……柴那典さん
音楽ジャーナリスト。米津玄師やBUMP OF CHICKEN、BABYMETALなど数々のアーティストへのインタビュー・執筆活動を行う。