
購入費用、収納場所、服を迷う時間を抑えられる
原口:「服のサブスク」はどういう仕組みなのか教えていただけますか?磯部:服のサブスクは、月々の定額料金を支払って自分好みの洋服を着ることができるレンタルサービスです。サービス内容によって、借りられる洋服の枚数や交換の有無、レンタル商品の買い取りなどのオプショナルサービスもいろいろあります。
今はレディース向けがほとんどです。エアークローゼット(airCloset)、メチャカリ(MECHAKARI)、アナザーアドレス(AnotherADdress)、アールカワイイ(Rcawaii)、ブリスタ(Brista)などいろいろなサービスがあるので、利用する前に細かくチェックしてみるのがよいと思います。1着当たり3000円〜6000円、3着で7400円〜1万1000円が平均的な相場感になると思います。
原口:服のサブスクのメリットはどんなところにあるんですか。
磯部:具体的なメリットは「毎月洋服を買わなくても新しい洋服が送られてくる」「毎月の洋服購入のための出費を抑えられる」「おうちの中のクローゼットの収納スペースを節約できる」「自分が着る洋服を悩んだり迷ったりする時間を省ける」の4点にまとめられると思います。
「服のサブスク」経験、わずか2.5%
原口:「自分では買わなかった服にチャレンジできる」「クローゼットの収納スペースを節約できる」といったメリットがあるなと思いました。実際に服のサブスクは定着しているんでしょうか。磯部:民間調査会社の調査では、服のサブスクについての認知率は52.9%、内容理解率が24.3%、利用経験率はわずか2.5%という数字があります。利用経験率が2.5%では定着とは程遠い感じがします。日本の人口が1億2500万人なので、約310万人が服のサブスクを使った経験があるということです。有料動画サービスの利用経験者約4500万人、音楽配信サービス約2500万人という数字と比較するとどうでしょうか。
原口:定着していないということは、利用者が増えていないってことなんでしょうか。
磯部:「エアークローゼット」の例を紹介すると、コロナ禍の期間中の落ち込みなどもありましたが、毎年増えているようです。ファッションのサブスクの草分け的な存在であるエアークローゼットは2015年にスタートしました。2022年の時点で、スタイルブックやアイテムの閲覧ができてお得な情報が受け取れる無料会員登録者数が80万人、レンタルサービスが受けられる月額有料会員数は3万2000人です。
もう一方の草分け的なサービス「メチャカリ」は、2019年時点の有料会員者数が2万人強です。エアークローゼットの同時期での月額有料会員数も2万人前後で推移していたので、エアークローゼットと同程度の規模感じゃないかと推察します。
「洋服」と「サブスク」の相性が…
原口:数字を見て、多くはないなという印象を受けました。服のサブスクは今後、定着していくのでしょうか。磯部:サブスクリプションという言葉自体は定着していて、2019年のユーキャン新語・流行語大賞にもノミネートされました。エアークローゼットも、2022年の日本サービス大賞内閣総理大臣賞を受賞しました。これは、創業10年未満のスタートアップ企業としては初めてです。
新しい技術や新しいサービスはとても聞き心地が良いのですが、服のサブスクはまだイメージ先行という気がしてなりません。実際に利用した人たちの口コミをのぞいてみると「期待ほどの商品が届かなかった」「買った方がお得」「汚れや破損したときの補償」など、身にまとう洋服がゆえのこだわりや価値観とサブスクとの相性を考えると、今のところあんまりよくないんじゃないかなと思います。
原口:うーん。
磯部:結婚式や礼服、ハレの日のイベントといった、着用シーンが限定される服の方が、サブスクとの相性がいいんじゃないかなと思います。新しい消費スタイルとして完全否定するつもりはありませんが、今のサービス内容で満足している利用者数は少数であるという事実を考えると、まだまだ改善の余地のあるサービスなのか、あるいは現在において多くの人の支持が得られていないサービスなのかもしれません。
原口:同じMサイズでも服によってサイズ感が違いますし、例えばちょっと腕が太いといった個人の悩みもあるじゃないですか。自分のイメージと合致する服をほしいとなると難しいんでしょうか。
磯部:服に対する個人個人の「期待値」みたいなものを満足させるのは難しいのかなという感じがします。
今回、お話をうかがったのは……磯部孝さん
1967年生まれ。アパレルにて企画、生産、営業の実務を経験後、2003年ココベイ株式会社にて大手流通チェーンや、ブランド、商社、アパレルメーカー向けにビジネス・コンサルティングを手掛ける。現在は、ITメディアビジネス内に連載「磯部孝のアパレル最前線」、講談社の『マネー現代』などで特集記事などの執筆活動もしている。