親子で読んでほしい絵本大賞受賞!『あるヘラジカの物語』
『あるヘラジカの物語』、どのような物語かご紹介ください。
鈴木さん:アラスカで暮らすヘラジカという大きなシカの物語です。ひとつの群れを率いているあるオスのヘラジカのところに、他所から若いオスのヘラジカが群れを乗っ取ろうとしてやってきます。そこでオス同士の争いとなり、普通はどちらの方が強いかがわかれば争いは終わるのですが、ヘラジカの角というのはとても変わった形をしていて、ときどき絡んでしまうことがあるんですね、この物語でもオス同士がぶつかった拍子に角が絡み合って離れなくなってしまう。
争いを終わらせたくても終われなくなって、だんだん2頭は疲れていき、そんな疲れた2頭のところに、オオカミやヒグマが来たり……と、自然の不思議な話がいろいろ起こるという絵本です。続きは絵本を読んでみてのお楽しみということで(笑)。
牧野アナ:自然界の命のつながりの素敵な物語になっていて、いろいろと考えさせられました。一部をご紹介させていただきます。
ここは、北のくに アラスカ、デナリの山のふもと。
もうすぐ 冬がやってくる。
1とうの おおきなオスのヘラジカが、
たくさんのメスと くらしていた。
ある日、このむれに みしらぬオスが ちかづいてきた。
メスたちを じぶんのものにしようとおもって やってきたのだ。
そんなことは ゆるせない。
むれをひきいるオスは、よそものに むかっていった。
オスどうしの はげしいたたかいが はじまった。
ガシン ガシンと おおきなつのが ぶつかる。
グオッ グオッと うなりごえが ひびく。
じめんの草が ふみにじられ、どろが とびちる。
ガシン ガシン、ガツン ガツン。
2とうは なんどもなんども たいあたりをし、つのをぶつけあった。
オスのヘラジカは、からだのおもさが800キロもある。
ぶつかられたら 車だって ひっくりかえるほどだ。
2とうのヘラジカは、どちらも まけてはいない。
たたかいは ながいじかん つづいた。
むれをひきいるオスが、こんしんの力をこめて
つのを あいてに たたきつけた。
あいても まけじと つのをつきあげた。
ガキッ!
おたがいに はじきとばされそうになったが、
ぐっと 足をふんばって こらえた。
すると……
なんということだろう。
おおきな つのとつのが からまって
はずれなくなってしまったのだ。
おしても ひいても、つのは はずれない。
ギシッ、ギシッ、
石のように かたい つのが こすれあうばかりだ。
あるときは かたほうが おし、
あるときは もうかたほうが おしかえす。
〜〜出典:『あるヘラジカの物語』鈴木まもる作〜〜
この絵本を描くことになったきっかけは?
鈴木さん:友人で絵本の原案者でもある写真家、星野道夫君が撮った一枚の写真がありまして。2頭のヘラジカが戦いの後、死んで骨になったものなのですが、ちょうど2年前の夏の夜に寝ていて、急に夢の中にその写真が現れたんです。そこに鳥が巣を作っているという夢で、それで目が覚めてこの写真の絵本を作ろうと思いました。牧野アナ:舞台でもあるアラスカに取材に行かれたそうですが?
鈴木さん:8月に夢を見てすぐにアラスカに行きたいと思ったのですが、調べてみると11月ではマイナス何十度の世界になってしまう。9月頃でもすでに寒くなっていて、舞台となるデナリ国立公園は閉まってしまうんです。ただ、10月頃でも自己責任で行く分には行けるということだったので、即、行くことに決めました。
もしその時急がずに、来年の春にでも行こうと思っていたら……、コロナの影響で行けなくなっていたと思うんですよ。だからその時、本当にパッと決めて行けてよかったなと思っています。10月の初めだったのでかなり寒かったのですが、広大なアラスカの平原をヘラジカやさまざまなものを求めて放浪できたことが自分にとっていい経験になったと思います。
鈴木さんがごらんになったアラスカはどのような世界でしたか?
牧野アナ:やはり自然がいっぱいなのですか?どのような雰囲気でしたか?
鈴木さん:広くて何もないというか。南方のジャングルにはこれまで行ったことがあるのですが、それとは全く違う、広大な世界という感じです。雪が降ると一面真っ白になって、遠くの山にヤギがいるとか、オオヤマネコがいた、なんてことがありました。生物の数自体は少なかったですね。
牧野アナ:きっかけとなった写真を撮られた星野道夫さんは、アラスカで命を落とされたんですか。
鈴木さん:正確にはロシアでヒグマに襲われて……。
牧野アナ:だからある意味、星野さんの想いを継いで鈴木さんが絵本にされたという印象を受けるのですが、星野さんの奥様はどのようにおっしゃっていましたか?
鈴木さん:最初この絵本を作ろうと思った時、奥様に出版してもいいかどうか見本を作って見ていただこうと思ったんです。ちょうど奥様がアラスカに行ってらしたので郵送しました。喜んでくださり、ぜひ出版してくださいと言ってくださったので進めました。
この絵本を通し、子どもたちに伝えたいことは?
鈴木さん:子どもだけでなく大人の方も皆さんに対して、生きていれば、今、日本国内でも大変なこともあるし、身近でもいろいろあると思うんです。でも大きな地球の中には、いろいろな命が生きていて、その中のひとつとして自分たちも生きている。その命の強さなり不思議さ、尊さだったり……、地球は自然の不思議なことが起きる場所だということも感じてもらえたらと思います。
牧野アナ:命のあり方を考えさせられる話だなと思いました。ぜひ皆さんにもご一読いただきたい絵本です。
今回、お話をうかがったのは……鈴木まもるさん
1952年、東京都生まれ。赤い鳥さし絵賞、講談社出版文化賞【絵本賞】、産経児童出版文化賞【JR賞】など数々の賞を受賞。2021年3月、『あるヘラジカの物語』(あすなろ書房)で第2回親子で読んでほしい絵本大賞を受賞。主な絵本作品に『ピン・ポン・バス』『がんばれ!パトカー』(偕成社(かいせいしゃ))、『せんろはつづく』『つみきでとんとん』(金の星社)などがある。下田市在住。
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