恐竜から鳥への進化のカギは「鳥の巣」!? 新刊絵本『鳥は恐竜だった 鳥の巣からみた進化の物語』
重要なカギを握る「鳥の巣」
2022年7月に発売されたばかりの絵本『鳥は恐竜だった 鳥の巣からみた進化の物語』。この絵本の作者、下田市在住の絵本作家の鈴木まもるさんに、SBSアナウンサー牧野克彦がお話をうかがいました。牧野:鈴木さんは、絵本作家でいらっしゃる傍ら「鳥の巣研究家」としても有名で、鳥の巣の研究や収集、展示会や講演会などの活動をされています。前回出ていただいた時には、その両方を掛け合わせたご自身の得意分野を絵本で表現するとおっしゃっていましたよね?
鈴木:僕は、伊豆の山の中に暮らしています。30年ぐらい前、偶然鳥の巣を見つけて、その形の美しさや不思議さに非常に魅了されて調べるようになりました。そのうちに鳥類学者の方に会いに行ったり、海外の博物館に行くようになって、いろいろな事がわかるようになってきたんです。
鳥類学者は、それぞれ研究している鳥、例えばメジロを研究されてる方はメジロの巣を知っていて、セキレイの研究されてる方はセキレイの巣を知っています。そういった方たちが巣を見ると「卵がいくつ産まれているか」「この地域に巣がいくつあるか」「10年前と巣の数が増えてるか減ってるか」ということが主になるのです。要するに、国勢調査的に数を調べるんです。
それはすごく大事なことなんですが、僕は絵描きなもので、どうしても「その形が綺麗だ」とか「どうしてこういう形を作るんだろう?」というように、鳥類学者の方々と全然違う見方をして鳥の巣を調べるようになりました。それで今回、「キムネコウヨウジャクという鳥の巣の形が、なぜ人間の妊婦さんのお腹の形とすごく似ているのか」についていろいろ調べていったら恐竜時代までさかのぼることになったんです。
牧野:ものすごく面白い話です。恐竜研究家も鳥研究家も行き着いていない視点がまだあって、そこを鈴木さんが作家だから気づかれた。鳥の巣の形から恐竜にアプローチをしたら、面白いことがわかったという話なんですよね!
鈴木:恐竜学の中では「なぜ鳥が飛ぶようになったか」「巨大隕石が6600万年前に地球に衝突した後、なぜ恐竜は絶滅し鳥類は生き残ったのか」という辺のことが謎のままだったんです。それを今回、実は「鳥が巣を作る」ということが、とても大きな要因だったと一冊の絵本にまとめました。
牧野:キムネコウヨウジャクという鳥の巣の形を絵本で見ました。妊婦さんを横から見た形とそっくりでお腹のように膨らんでいて、その膨らみの下に妊婦さんの足のように下に伸びている通路がありました。その通路の入り口のところから、親鳥は餌をひなに運んでいくんですよね?
鈴木:そうなんです。ひなは飛べるようになるとそこから出てくるんです。みなさん鳥の巣っていうと、ボサボサしたイメージがあるのですが、それは木の上にある鳥の巣を下から見るからなんです。キムネコウヨウジャクの巣は、枝の先に巣の本体の部分だけがぶら下がっているんです。いわゆるボサボサの部分がない、本当に大事な部分、子宮と同じようなものだと思うのですが、その形がそのまま出ているのがキムネコウヨウジャクの巣の形だと思います。だから、子宮のようなものを体の外に作ることで、体を軽くして空を飛べるようになったということなんだと思います。
牧野:この絵本はストーリーを楽しむだけではなく、科学的な読み物のような感じで読んだのですが、親子で読んだときに「鳥の巣って、木の上ばっかりじゃないんだね」と息子が言ったんです。地面とか水辺に巣を作る鳥もいて、実はそれが恐竜との繋がりに関わっているのではないかということですか?
鈴木:そうなんです。卵やひなは美味しいので、他の動物に見つかると食べられてしまいます。だから食べられないような場所に巣を作るのは当然だと思うんです。やはり、巣を作る場所の違いで、例えば藪の中だと藪の中の、水辺だと水辺の、木の上だと木の上の暮らしがあって、そういうところから飛翔筋といって羽ばたく筋肉がついていったものが、鳥の形になっていったんだと思います。
牧野:なるほど! 元々、鳥は恐竜だったと。その恐竜たちが地面や水辺、木の上など、いろいろな場所に巣を作った。そして、それぞれが飛ぼうという動きをして、その結果、恐竜から鳥になっていったということですか?
鈴木:やはり、追われれば逃げますよね。それ以前から恐竜には羽は生えていたので、逃げるうちに、坂を飛び降りたり空気の上昇気流を利用したりすることによって飛べるようになって、さらに筋肉が強くなっていくことで羽ばたけるようになっていった。それぞれ3つの飛行方法というのは、巣の場所の違いだと僕は思います。
牧野:鈴木さんは何で恐竜は絶滅したと思っているのですか?
鈴木:巨大隕石がぶつかって地球上の約75%の生物は死んだらしいのです。残った恐竜、例えばティラノサウルスは肉食だからやっぱり大きい分たくさん食べることが必要ですよね。さらに、大きいということは大人になるのに時間がかかるんですよ。そうすると、卵を産むまでに10年以上、20年近くかかってしまうのです。
ところが、小型の鳥は生まれてすぐ翌年ぐらいから卵を産めるのです。小さい分、食べ物も少なくていいので、小型の鳥は翌年からどんどん卵を産んでひなを育てられるのに対し、ティラノサウルスは18年経たないと卵も産めないし、食べ物も少ないということで、だんだん数が減っていったのではないかと。
牧野:なるほど! 倍々ゲームで考えると、鳥の方が圧倒的に短い時間で増えていけるのですね。そして鳥が生き残っていった。面白いですね。今の時代もそうですが、これからサバイバルになっていったときに、誰が生き残るか頭の中でイメージすることがあるのです。そういう時、力がモリモリで強いから生き残るっていうわけじゃないんだなということを改めて感じますよね。
鈴木:そういうことも言えると思うんですよ。だから一見、ティラノサウルスと小型のスズメだと、ティラノサウルスの方が強いと思いますが、飛んで逃げちゃえば全然関係ないわけですから。大きい分それを維持するための力なりエネルギーが必要になることで、かえって弱くなっていったのはあるんじゃないかと思います。
牧野:だから鳥の巣から見た進化の過程や生き残りをかけたものというのが、この本から読み取ることができます。改めて鳥の巣のすごいところはどんなところだと思いますか?
鈴木:それぞれの鳥が親にも誰にも教わらないで巣を作るんですよね。それぞれの鳥、それぞれの生命というのはどこでどうやって生きていくかを本能的には知っているはずなんです。だから「自分がどういうことが好き」で「何がしたいのか」というのを、誰かに教わるということではなく、自分が行動して見つけていくものだし、見つけられるものだと思うんです。だから、何かに頼ったり、「ああしなきゃいけない」「こうしなきゃいけない」ということが、自分自身を見つめることから遠ざけていってしまう、自分が何をして良いか分からなくしてしまうのではないかな、と思います。
牧野:何か壮大な物語ですね。鈴木さんが今まで温めていらっしゃったものを今回、絵本になさったんですもんね。
鈴木:1億数千万年が凝縮してますから。それだけ自然って面白いのだと思います。それが、偶然見つけた鳥の巣から繋がっていくところも、自然の中にいろいろなものが秘められいて、結果的にそれを見つけるかどうかということなんだと思います。
牧野:これは、鈴木さんにしか描けない絵本だと思いました。普段から鳥の見方が変わります。ぜひ、みなさんも読んでみてください!
今回、お話をうかがったのは……鈴木まもるさん
1952年、東京都生まれ。赤い鳥さし絵賞、講談社出版文化賞【絵本賞】、産経児童出版文化賞【JR賞】など数々の賞を受賞。2021年3月、『あるヘラジカの物語』(あすなろ書房)で第2回親子で読んでほしい絵本大賞を受賞。主な絵本作品に『ピン・ポン・バス』『がんばれ!パトカー』(偕成社(かいせいしゃ))、『せんろはつづく』『つみきでとんとん』(金の星社)などがある。下田市在住。
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