
牧野:麻疹(はしか)は、どういう病気ですか?
矢野:麻疹ウイルスによって起こる感染症で、非常に感染力が強く、空気感染が起こります。戦前の日本では年間1万人の子どもが死亡していました。麻疹に対する免疫がない場合、感染者と同じ部屋にいるとほぼ確実に感染します。
感染力の指標として、1人の感染者が何人に感染を広げるかという「基本再生産数」があります。新型コロナウイルスは2〜3、麻疹では12〜18です。麻疹は格段に感染力が強い病原体なんです。
牧野:麻疹の症状や合併症について教えてください。
矢野:麻疹に感染すると、10日後に熱やせき、鼻水が出て、風邪のような症状になります。それが2〜3日続き、39度以上の熱と発疹(ぶつぶつ)が出ます。肺炎や中耳炎などの合併症があり、特に怖いのが脳炎です。患者1000人に1人の割合で脳炎を発症し、死亡することもあります。
先進国で麻疹感染者が死亡する人は1000人に1人ですが、開発途上国ではもっと多くなります。WHO(世界保健機関)によると、2021年に世界で900万人が感染して、12万8,000人が死亡したということです。
牧野:日本でも今後大きな流行となるリスクが高まっていますか?
矢野:そうですね。日本では1978年からワクチンの定期接種が始まり、2006年に2回接種となりました。ただ、定期接種の開始前や1回接種のみの世代では、まだ麻疹に対する免疫が獲得できていないことがあります。実際、麻疹は1984年に大きな流行があり、1991年、2007年、2019年と小さな流行もありました。
新型コロナウイルス感染症による渡航制限がほぼなくなり、海外から麻疹が持ち込まれることを心配しています。また、新型コロナの影響で日本国内における麻疹ワクチンの接種率が低下したのも懸念材料の一つとなっています。MRワクチン(麻疹風疹混合ワクチン)を2回接種すればほぼ確実に免疫がつきますので、ワクチン接種してほしいと思います。
母子手帳で接種歴、抗体検査で免疫の有無を確認
牧野:現時点で自分が麻疹の免疫を持ってるかどうか確認できますか?矢野:母子手帳の予防接種を記録する欄で、接種歴を確認できます。母子手帳がない場合は抗体検査というものがあって、免疫を持っているかどうかわかります。これは保険診療ではないので、自費診療になると思います。
牧野:インフルエンザも流行しはじめていると聞きます。インフルエンザには特効薬がありますが、麻疹も薬で治すことはできますか?
矢野:特効薬はないですね。ワクチン接種が一番よいと思います。
麻疹かなと思ったら、病院に行く前に連絡を
牧野:人混みから帰って風邪の症状らしきものがあったら、麻疹も疑った方がよいのでしょうか?矢野:風邪の症状があったというだけでは、麻疹を疑うことは難しいです。自分が住んでいる市町に麻疹が発生していて、発疹と発熱があれば疑うことは可能だと思います。その時はそのまま医療機関に行くのではなく、連絡してからの受診となります。
牧野:感染力が強いので、直接病院に行ってしまうと問題があるわけですね。手洗い・うがいは麻疹にある程度有効ですか?
矢野:麻疹は空気感染と飛沫感染なので、手洗い・うがいが有効ということはまずないと思います。ただ、手洗いはその他の感染症に有効なので、引き続きお願いしたいです。
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免責事項
今回お話をうかがったのは……矢野邦夫先生
浜松医療センター 感染症管理特別顧問。1981年名古屋大学医学部卒業、名古屋第二赤十字病院、名古屋大学病院を経て米国フレッドハッチンソン癌研究所留学。帰国後、浜松医療センターに勤務。同院在籍中、ワシントン州立大学感染症科に短期留学。2008年より副院長、2020年より院長補佐。2021年より現在に至る。医学博士、感染症専門医。著書多数