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賛否両論……日本でも「ワクチンパスポート」は導入される?

世界で普及している「ワクチンパスポート」

先日、日本で新型コロナウイルスのワクチン接種で2回目を終えた人が、全人口の半数を超えたというニュースがありました。11月までには、希望者全員のワクチン接種が完了するという報道もあります。それに向けて政府は、ワクチン接種の証明があれば、飲食、イベント、旅行などの制限を緩和していきたいとし、「ワクチンパスポート」の導入を検討していますが、賛否両論があるのが現状です。「ワクチンパスポート」とは、一体どういったものなのでしょうか。

「ニューズウィーク」など数多くの媒体で連載を持つほか、テレビ、ラジオでコメンテーターも務めている経済評論家の加谷珪一さんにうかがいます。
※9月29日にSBSラジオIPPOで放送したものを編集しています。
コロナワクチン予診票

「ワクチンパスポート」とは?

加谷さん:明確な定義はありませんが、一般的には、ワクチン接種者に証明書などを交付して経済活動を優先させるための制度のことを指しています。具体的には、パスポートがあると割引や特典が受けられて、カフェや映画館に入れるなどのプラス面を活かしたものと、パスポートがないと渡航できない、入場制限があるなどのマイナス的要素とふたつの考えがあります。

牧野アナ:海外では、ワクチンパスポートの導入が進んでいるんですよね。

加谷さん:ヨーロッパではかなり普及していて、フランスでは映画館やレストランで提示しないと入場できません。また国ごとに対象範囲は異なりますが、導入しているところが多いと思います。以前はアメリカは消極的でしたが、ニューヨークではイベント会場や飲食店では義務づけるようになっています。一方イギリスは慎重で導入を見送っています。各国全体的には進められていて、一部の国では消極的というところではないでしょうか。

牧野アナ:日本ではまだワクチンパスポートはありませんが、飲食店などではワクチン接種に関する動きが検討されているんですよね。

加谷さん:例えば外食産業のワタミでは、ワクチン接種もしくはPCR検査を実施した従業員に「安全マーク」のようなものをバッジなどで身につけさせることを検討しています。

牧野アナ:ある意味、企業版ワクチンパスポートのようなイメージですか?

加谷さん:そうですね。企業のほうで自主的に「従業員はワクチン接種している」と示すものです。

牧野アナ:しかし、従業員の中には接種できない人もいるのではないでしょうか?

加谷さん:はい、ですので実は賛否両論があるんです。ワタミでは職域接種が実施できなかったので、従業員が自力で自治体の接種を受ける必要があります。ただ自治体によって差があるため、受けたくても受けられない人がいて、従業員間で格差や断絶が生じるリスクがあるのではないかと指摘する人もいます。

「ワクチンパスポート」のメリット・デメリット

牧野アナ:そういうことも起こりうるから賛否両論ありますが、日本でワクチンパスポートを導入するメリットは何ですか?

加谷さん:ワクチンパスポートがあれば、接種した人やPCR検査した人に飲食店やイベントに行ってもらえるので、経済には確実にプラスの効果が見込めます。

牧野アナ:一方、ワクチンパスポートのデメリットは何でしょうか。

加谷さん:やはり、接種した人としていない人で不公平感が生じる可能性があること。特に医学的な理由で接種できない人や希望しているのにまだ打てていない人がいるなかで導入してしまうと、排除してしまう可能があるため、十分配慮する必要があります。

牧野アナ:日本でのワクチンパスポートの導入は現実的なのでしょうか。

加谷さん:政府は基本的に進める方針ですし、欧米でもそれなりに効果が出ているので進めることに意義はあると思います。ただし導入するには、接種を希望するすべての人が打ち終わってから! そうでなければ差別や格差の温床となってしまうので十分注意しなければならないと思います。

牧野アナ:そうなると11月を過ぎてからでしょうか?

加谷さん:順調にいけばそのくらいに進みますし、当然そうではない可能性もあります。パスポートの議論だけを先に進めるのはリスクが大きいのではないかと思います。

牧野アナ:あとは、接種が終わってから半年、1年経つと、ワクチンの効果が落ちてきますよね。早い人だと今年の春には接種しているので、「11月には効果が落ちてない?」「パスポートの期限を作ったほうがいいのでは?」と思うのですが。

加谷さん:その議論は出ています。追加接種が必要であれば、期限を設けて再発行がいるという話が出ている一方、それだとキリがない……という話も。追加接種の効果がどの程度か、ブレイクスルー感染がどのくらい出てくるか、それらと経済状況を総合的に俯瞰するしかないと思います。

牧野アナ:まだまだ新型コロナウイルスとの共存は続きそうです。上手に付き合っていくにはどうしたらいいと思いますか。

加谷さん:ワクチンパスポートの制度も大事ですし、感染対策も重要なんですが、最終的には医療ですね。いざというときに病院にかかれる安心感があると経済活動にもプラスになります。ここの部分が担保されないと、いくら制度を導入しても100%経済が元には戻らないので、医療体制の拡充をぜひ政府にやっていただきたいと思います。

牧野アナ:ひとつの対策ではもう無理ですからね。いろんな対策を複合的に多面的にやっていく必要がありそうですね。今回はありがとうございました。
 
今回、お話をうかがったのは…… 加谷 珪一さん 
仙台市生まれの経済評論家。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。その後、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は「ニューズウィーク」など数多くの媒体で連載を持つ。「貧乏国ニッポン」(幻冬舎新書)「日本は小国になるがそれは絶望ではない」(KADOKAWA)など著書多数。
 

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