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精神科医に教わる、災害時のメンタルケアとは

静岡県は台風15号により大きな被害を受けました。肉体的にはもちろん気持ちも疲れていらっしゃる方も多いと思います。今回は、そんなときのメンタルケアを精神科医の井上智介先生に、「鉄崎幹人のWASABI」パーソナリティの鉄崎幹人、SBSアナウンサーの山﨑加奈がお話をうかがいました。
※9月29日にSBSラジオ「鉄崎幹人のWASABI」で放送したものを編集しています。 

山﨑:井上先生は、精神科医であると同時に産業医でもあり、毎月40社を訪問して診療にあたっています。また、「おおざっぱ(rough)に笑って(laugh)人生を楽しんでもらいたい」という思いから「ラフドクター」と名乗り、SNSや講演会などで心をラクにするコツや働く人へのメッセージを発信されています。金髪アフロヘアがトレードマークです。

災害時のセルフケア

鉄崎:静岡県が台風15号の被害で大変なことになり、メンタルの疲れが出てきている時期だと思います。なかなかすべてを治すのは難しいとは思いますが、心掛けたらいいことはありますか?

井上:こういった時に「この後どうなっていくのだろうか」と不安などで考えてしまうと思います。あまりにも先のことを考え過ぎると、「あれもこれもやならいといけない」と考えてしまい、しんどくなってしまうことがあります。

なので、できるだけ今日一日くらいの、本当に短いスパンでやることなどに集中してください。夜寝る前には、”できなかったこと”に目を向けるのではなく”今日できたこと”を振り返って、自分でよかったところを意識して一日一日を積み重ねるようにしてほしいと思います。

鉄崎:「今日はここまでやったからこれでよし!」と、自分に「合格」を出すわけですね。

井上:そうですね。自分で自分に「いいね!」を押す感じでいいと思います。

子どもへのケア

山﨑:子どももストレスや不安があると思います。ケアはどうしたらいいですか?

井上:子どもはこういう時、けっこう大人に気を遣って不安や怖い気持ちを上手く表現できないこともあります。なので、まず大人の方から「こういうことがあって怖いよね、心配になるよね」と代わりに言ってあげることで、気持ちをわかってくれていると安心します。「大人の私もそういう気持ちだよ」と伝えると、より安心感が伝わります。

他にも、こういう時だからこそ抱きしめたり手を握ってあげるなど、スキンシップをすることですね。子どもの不安は、なくなると思います。あとは、「〇〇くん・ちゃん、だいじょうぶだよ」と、いつも以上に子どもの名前をしっかりと呼びながら、前向きな声かけをしてあげることで、さらに子どもの安心につながります。そういったことを心がけた接し方をしてほしいなと考えています。

鉄崎:ちゃんと名前を呼んであげることが大事なんですね。

井上:そこで精神的なつながりを感じられるので、子どもとしても安心感を得ることができます。

被災者に声をかけるとき

鉄崎:そして、いま大変な方たちに声をかけるときは、どんなことを言ったらいいでしょうか?

井上:もちろん、必要な物資を届ける、泥をかきだすボランティアに参加する、必要な情報を伝えるなど、被災された人のニーズに応えていくのが一番最初にあると思います。その上で心のケアとして、近くにいる人であれば、特別な言葉はなくても、しんどさ・辛さを否定せずにじっくり耳を傾けるだけで十分です。上手く話ができなくても、実際に隣に座ったり別れ際に握手をするだけでも、被災された人へ安心感を与えることができます。

もし、遠くにお住いの知人や家族であれば、電話などをして「いつでも何でも話をしてくれて大丈夫ですよ」と、こちらの間口がオープンである姿勢をどんどん伝えて欲しいです。こういうのも1回きりではなくて、「最近どんな感じ?」「寝れてますか?」など特別な話題じゃなくても「気にかけているよ」「ひとりじゃないよ」というのを分かるようにするのが、周囲の出来ることだと思います。

支援できないもどかしさに対して

鉄崎:あと、被災された人や地域について心にかけているけど、「遠いし何もできない」「もどかしい」と自分を責めている人がいるんです。そこを責めないでほしいなと思うんです。

井上:そうですね。近くにいても遠くにいても、意外と私たちのできることは限られていると思うんです。なので、まずはそうやって思うだけでも十分気持ちが伝わっていると思っていただきたいですし、本当に自分に余裕があって動ける時に、そこで初めて動けばいいと思います。

鉄崎:その気持ちだけで十分ですよ。僕はいつも「できることをすればいいよ」と言っています。それしかないですもんね。そうやって、ちゃんとしっかり心配して考えている人がたくさんいることは確かですからね。

もう少し大変な状況が続いていきますが、少しでも前向きになれるメッセージがあれば、最後にお願いします!

井上:こういった大変な時、「助けて欲しい」なんて言ったら周囲に迷惑がかかるんじゃないかと悩んでしまったりする人がいるのです。しかし、しんどい時こそ、周囲に沢山甘えて頼って、差し伸べられている救いの手を遠慮なく掴んでほしいと思います。

鉄崎:それは、本当にその通りだと思います。

山﨑:助け合いですよね。

鉄崎:助けられて、違う時に今度は自分が助ければいいんだし。助けた人は、いつか逆に助けられる時もくるはずだと思いますしね。とてもいい言葉をいただきました。ありがとうございました!

※当サイトにおける情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、並びに当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項
今回、お話をうかがったのは……井上智介先生
産業医として毎月40社を訪問し、悩める従業員にカウンセリング要素を取り入れた対話重視の精神的なケアを行う。また、精神科医としてもうつ病などの治療だけでなく、自殺に至る心理、災害や家庭、犯罪などのトラウマケアにも力をいれている。さらに、ブログやSNS、講演会などでは「ラフな人生をめざすこと」を発信している。

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