動画を倍速で見る人が増えている!? これって本当に理解できている?弊害はない?
倍速視聴、上手に活用できてる?
今、動画配信サイトが広く普及していますが、効率的に映画やドラマを楽しもうと倍速で視聴する人が増えています。でもこれって、脳に影響はないのでしょうか? 玉川大学 脳科学研究所教授の松田哲也先生に、SBSアナウンサー牧野克彦がお話をうかがいました。牧野:最近、ドラマや映画を倍速で見ている人が増えているそうですね。なんだかちょっと味気ない気もするのですが......。
松田:時間を短縮させて、効率的に楽しみたいということだと思いますが、本来の制作サイドの意図とは違う形で伝わってしまうリスクがあると思います。
牧野:特に、若い世代で倍速視聴が広がっているのでしょうか?
松田:若い人の方が動画視聴することが多いので、「若い世代に多い」といわれているのだと思います。
映画やドラマを倍速視聴した場合
牧野:松田先生は脳の専門家でいらっしゃいますが、映画やドラマを倍速で視聴しても、ちゃんと内容は入ってくるものでしょうか?松田:人間の認知機能では、処理できる能力というのがある程度決められています。倍速で視聴すると、見られる範囲が画面のなかの一部など限定的になってしまいます。そうすると、役者が演じている細かいやりとりや表情の違いは、やはり、つかみにくくなってくると思います。
牧野:ドラマ制作側が意図しているような、この表情がいいんだよとか、伏線の部分などを見落としやすくなりそうですね。
松田:ちょっとした間とか、例えば同意する「うん、いいよ」という言葉であっても、聞かれてから答えるまで0.5秒遅れても、100%の同意なのか、90%の同意なのか、50%の同意なのか。同じ「うん、いいよ」という台詞であったとしても間隔でパーセンテージが変わってきたりするんです。
勉強系やハウツー系の動画を倍速視聴した場合
牧野:ドラマや映画はなるべく普通の速度で視聴してほしいと思う一方で、勉強系やハウツー系動画の倍速視聴は、いいんじゃないかと思うのですが、実際はいかがですか?松田:これも内容によると思います。自分に下地があって、ある程度内容を知っている上で新しいことを取り込むのであれば、十分意図していることがわかります。あとは、内容にもよりますね。情報が盛りだくさんの動画だと、倍速視聴では何を言っているかわからなくなると思います。
牧野:私は、数年前に講演会の音声などを4倍速で聴く「速聴」を学んでいました。しばらくそのトレーニングをすると、実際理解できていたのかわかりませんが、4倍速でも慣れてきて聴き取れるようになっていました。脳の理解速度を上げる効果を期待してやっていたのですが、その点はいかがでしょうか?
松田:だぶん慣れというのが出てくるので、その人が理解できる速さを上げることは、速聴トレーニングすることで可能だと思います。それがどこまでの速さだったらいいのかには個人差があると思います。
コミュニケーションへの影響
牧野:その他、どんな影響をもたらしますか?松田:ドラマの話でも出てきましたが、人間と人間のやりとりは非常に細かいコミュニケーションを行っています。倍速動画を見ることに慣れてしまうと、相手が何を言っているのか理解できないことが起こる可能性はあると思います。
牧野:コミュニケーション能力に影響してくる可能性があるということですか?
松田:対人関係にでてきてしまうリスクはあると思うのですが、今のところよくわかっていません。
牧野:世の中はどんどん効率を求めるようになってきていて、SNSでも「TikTok」では短い時間で動画を楽しむことができます。「TikTok」はどのように脳で認知しているのでしょうか?
松田:起承転結と考えると、オチが早めにくる話だと思うんです。4コマ漫画を見ている感じです。短すぎるという議論はありますが、起承転結の中で、間を自分で補完している。ひとつの情報のコンテンツとしてはおもしろい媒体ではないかと思います。
牧野:映像と音声の倍速で違いがありますか?
松田:非常に難しい質問ですね。我々はさまざまな情報を、視覚や聴覚など、いろいろな感覚を統合しながら認知しています。視覚だけで見た場合と聴覚で聴いた場合は相互補完があるので、両方の感覚で見た方が、当然理解は速くなります。
牧野:ラジオは脳科学的に見てどうですか?
松田:最近だと視覚優位なコンテンツが多いと思いますが、その中でラジオの面白いところは、聴覚情報しかないので、アナウンサーの発した言葉をリスナーが頭の中でイメージして理解する。音で聴こえたものを、聴いている人の記憶を使って情景を思い出させて理解させる媒体です。視覚的な情報ではない、おもしろい情報の伝達手段じゃないかと思います。
牧野:私が話した言葉で、みなさんがそれぞれいろんなイメージを思い描くので、人によって受け取り方が異なり面白いですよね。
松田:そうなんです。例えば、「老舗のラーメン屋さんに来ています」という情報があったとしても、そのラーメン屋さんをどう思い描くかは人それぞれ違ってきます。
牧野:これは脳にいいと言えますか?
松田:いいか悪いかは言えませんが、想像力を使って理解するという意味ではおもしろい手段というか、脳を活性化させられるのではないでしょうか。
牧野:今回は脳の視点でお話を伺っていますが、倍速視聴は、今後どのように利用されるといいでしょうか?
松田:その人が理解できる範囲の中で上手く使っていければいいと思います。
牧野:それぞれの人が自分のペースで倍速視聴を有効に使ってみてください!
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免責事項
今回お話をうかがったのは……松田哲也先生
玉川大学脳科学研究所 教授。2004年東京医科歯科大学大学院博士課程修了。博士(医学)。専門は認知神経科学。ヒトの社会性や個性のメカニズムについて脳科学的視点から研究している。日本医療研究開発機構のプログラムオフィサーとして、脳科学研究の国家プロジェクトの進捗管理も行っている。
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