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ヒット曲の歌詞に見る時代の変化!いま、一番使われている言葉は?

ヒット曲の分析で、生活者の価値観や恋愛観の推移が分かる!

ヒット曲の「歌詞」に注目して、時代の変化を分析したリポートが2月に発表されました。この分析を担当された、博報堂生活総合研究所 上席研究員の佐藤るみこさんに、SBSアナウンサー牧野克彦がお話をうかがいました。
※4月6日にSBSラジオIPPOで放送したものを編集しています。

牧野:佐藤さんがご所属の博報堂生活総研では、どんなことをしているんですか?

佐藤:企業は世の中の人々のことを、物を買う消費者として捉えがちなのですが、実際私たちは、仕事をする企業人であり、家庭を持つ家庭人であり、地域では自治会員でもあるわけです。私たちは、そうした世の中の人々を「生活する主体」として丸ごと捉え、人の意識や行動を探る研究をしています。

牧野:例えばどんな研究ですか?

佐藤:具体的には、30年間同じ内容の調査を実施することで、生活者の価値観の変化を長期で追跡調査したり、10年後、20年後の少し先の未来の様子を生活者と一緒に考えたり、デジタル空間上のビッグデータを観察して生活者の見えざる価値観や欲求を発見する、といった他ではなかなか取り組むことのない視点で生活者の研究を行うシンクタンクです。

牧野:その中でヒット曲の分析をされたということなんですね。これはどんな研究だったんですか?

佐藤:昭和~令和のヒット曲、約4100曲の歌詞を品詞別に分析しました。具体的には、まず1980~2020年の各年のオリコンランキング上位100曲、合計約4100曲をリストアップして歌詞を調べました。英語のみや歌詞がない曲をのぞいた4017曲の歌詞について、自然言語処理を行うテキストマイニングソフトを使い、歌詞に含まれる単語の年による推移を分析しました。年によって、その単語が使われる曲数の推移を調べたんです。

牧野:時代による変化は見えてきましたか?

佐藤:はい、今回はその中から2つご紹介します。

1.「恋」「涙」が少なくなり、「今」「手」「世界」「未来」が使われるように

佐藤:まず名詞を分析すると、1980~90年代のヒット曲で頻繁に使われていた言葉の「恋」「涙」は、ここ10~20年の間にあまり使われなくなりました。2010~20年代には「今」「手」「世界」「未来」といった言葉が頻繁に使われるようになったことも見えてきました。

2.「私」と「あなた」から、「僕」と「君」へ

佐藤:代名詞を分析すると、1980~90年代初頭までは「私」と「あなた」が最も使われていました。1990年代後半になると「僕」と「君」がトップの座を奪い、2000年代後半以降2020年に至るまで「僕」と「君」が最も使われていることがわかりました。

ちなみに「僕」と「君」が最も使われるようになった1990年代後半~2000年代は、宇多田ヒカルさんや浜崎あゆみさんといった女性アーティストも「僕」や「君」を使い始めた時代なんです。その後、2000年代後半~10年代にAKB48さんや乃木坂46さんなどの坂道グループさんの曲でも使われていますし、最近ではあいみょんさんやLiSAさんなどの曲でも「僕」や「君」が使われていることは記憶に新しいかと思います。

牧野:確かにそうですね。では、「僕」「君」がどのように歌詞に使われているのか……少し聞いてみましょう!

 Can You Keep A Secret?/ 宇多田ヒカル 

近づきたいよ 君の理想に おとなしくなれない Can You Keep A Secret?

牧野:いきなり、「君の理想に」と出てきました。

 君はロックを聴かない/ あいみょん 

君はロックなんか聴かないと思いながら 少しでも僕に近づいてほしくて


牧野:確かに女性アーティストが「君」「僕」を使うことが増えてきた時代が、1990年代後半からありましたね! その前でいうとZARDさんが使っていたような気もしますし、じわじわ広がっていったんでしょうかね。

佐藤:はい、そう考えられます。

牧野:こうしたヒット曲の歌詞を分析することで、どういうことがわかるのでしょうか?

佐藤:生活者の方々が支持したヒット曲の歌詞を分析しながら、その時代にどういうことがあったのか、社会背景や出来事を重ね合わせることで、生活者の価値観や恋愛観などの推移を推し量ることができるのではないかと考えています。

牧野:今、言葉が変わってきている理由は、どういう理由でしょうか?

佐藤:1980年代・90年代前半までは、「私」「あなた」と恋人や想い人をさす代名詞が多かったのが、90年代後半・00年代に「君」「僕」の代名詞が使われることが増えてきました。「君」がヒット曲の歌詞で最も使われるようになった2000年代後半は、SNSやスマートフォンの普及もあって、「世界」と常時接続されるようになった頃です。リアルに会うだけでなく、ネット上で全世界と簡単につながることができ、生活者を取り巻く人間関係は多様化しました。そのような中で「君」という言葉が指すのは、自分にとって”関係の近い人”、恋人だけでなく親友、家族、あるいは推しの存在など、聴き手がどう受け止めても成立する人なのだと考えています。2000年代以降のヒット曲で「君」「僕」という代名詞が主に使われるようになったのは、その方が生活者が皆自分の状況に置き換えて歌詞に共感しやすいから、ではないかと考えています。

牧野:対象者も多いから、ヒットにつながりやすいかもしれませんね。

佐藤:そうですね。汎用性というのが、今の歌詞に通じるところかもしれません。

牧野:今回の分析で、佐藤さんが一番おもしろいなと思ったのはどんな点ですか?

佐藤:肌感として思っていたことが、今回の研究でデータ化して分析することで、年次の推移が数字としてきちんと表れたことです。最近のヒット曲の歌詞でも「君」や「僕」が使われていることは多いな、とか、不況が続く中で先の見えない未来よりも「今」をどう生きるかだったり、誰もが自分ごととして共感できるような言葉が使われるようになってきているのではないかと思っていたことが、まさにデータとして数字に表れた時には、興味深いといいますか、少し感動を覚えました。

牧野:データで明確に出てきたわけですね。まだこの研究は続けて、何か展開などがあるのでしょうか?

佐藤:はい。今回の歌詞分析では、1980~2020年代の5つの年代別に、各年代で使用頻度の高い言葉も分析しました。年代別によく使われた言葉を5つずつ設定して、AIによる作詞・作曲で年代別の楽曲を制作中です。

牧野:これは、公開されますか?

佐藤:夏ごろまでには、博報堂生活総合研究所のWEBサイト上で公開できればと考えています。

牧野:最後に曲をかけたいのですが、今日の話題にふさわしい曲はありますか?

佐藤:Lisaさんの「紅蓮華」です。2020年代のヒット曲分析の結果、名詞で最も使われている上位ワード5つ(「今」「手」「心」「夢」「世界」)が全て入っているのが「紅蓮華」だったんです。しかも、一番の歌詞のみですべて出てきました。

牧野:1位から5位まで順に「今」「手」「心」「夢」「世界」。どこで出てくるかみなさんもチェックしてみてください!

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