“ジブリ一強”から『君の名は。』『名探偵コナン』『鬼滅の刃』までアニメ映画ヒットの歴史を振り返る


SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は「アニメ映画のヒット」についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

“ジブリ一強”だったアニメ映画の世界が変化した2010年代

1990年代なんかはスタジオジブリ一強といわれていた日本のアニメ映画でしたが、近年様々な作品がヒットしているといわれています。いつの時点からそうなったのかを探るという趣旨で、2010年代のアニメ映画の興行について解説したいと思います。

それまでアニメ映画というのは、限られた作品でしかヒットがありませんでした。いろんな傑作が作られていますが、2000年代に入った頃は映画の興行収入全部を合計しても200億から300億円ほどでした。

しかしそれも、ジブリ映画が公開された年だけは違いました。例えば2001年、アニメ映画の興行収入の合計は500億円くらいですが、そのうち約300億円が『千と千尋の神隠し』だったほどです。

この傾向が変わってきたのが2012年です。この年は、スタジオジブリ作品なしで興行収入の合計が400億円を超えました。何が大きくヒットしたかというと、まず細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』が42億円、『ONE PIECE FILM Z』が68億円。ワンピースはそれまで年1本だった映画の公開タイミングを仕切り直して、大作を何年かに1度公開するパターンに切り替えた2作目ですね。そして『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』、これが53億円。他にも注目作はあるのですが、この3作が大きく目立ってヒットしてトータルで400億円を超えました。

実はこの3作品のヒットには予兆がありました。2009年に前段的な感じの作品がヒットしているんです。例えば細田作品では『サマーウォーズ』が16.5億円、ワンピースの仕切り直しの第1作『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』が48億円。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』が40億円です。

助走をつけての大ジャンプ!

2009年に「ホップ」があって、そのときにはそのヒットが作品単体の魅力なのか、アニメ映画のトレンドなのかわからなかったのですが、2012年に全体が盛り上がる感じになってきて「ステップ」。「ジャンプ」は2016年の『君の名は。』のヒットですよね。約250億円と歴史的なヒットを記録しました。

こうした興行の広がりが、単なる作品のヒットだけじゃないということは劇場版『名探偵コナン』の変遷を見てもわかります。毎年1作公開している劇場版『コナン』の興行成績を確認すると、2009年の『名探偵コナン 漆黒の追跡者』で興行収入35億円を超えました。そのあたりまでは20億から30億ぐらいを行ったり来たりしていたのですが、ここからは30億を切らなくなります。その後の『名探偵コナン 純黒の悪夢』(2016年)は63.3億円で、今年公開の『名探偵コナン 黒鉄の魚影』ではついに100億円を突破しました。

こうして見ると、やっぱ2009年に「ホップ」、2012年に「ステップ」、2016年に「ジャンプ」となりますね。目立ったヒット作があっただけではなく、アニメ興行自体がだんだん大きくなっていきました。コナンの数字を見ていても、アニメ映画をチョイスする人そのものが増えていることが感じられます。それまではアニメが好きな人が見るとか、話題作だから見るという「点」だったのが、線というか「面」になってきたんですよね。そうして2010年台の最後には『鬼滅の刃』につながっていきます。

ホップ、ステップ、ジャンプからのジャンプ! ジャンプ! という感じで、今の状況があると理解していただけると、アニメ映画の現状がちょっと見えてくるんじゃないかなと思います。

(SBSラジオ 2023年7月10日放送)

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