劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影』が国内興行収入100億円突破!『名探偵コナン』はなぜ強いのか?


SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』が国内興行収入100億円突破ということで、なぜ強いのかという分析をしていただきました。※以下語り、藤津亮太さん

『名探偵コナン』が観客を引きつける秘密とは

劇場版『名探偵コナン』の一番の特徴は、「恋愛」や「死」の要素がはっきり入っていることです。TVシリーズを継続しつつ、年1回劇場版を公開する映画は『ドラえもん』を筆頭にいろいろあるんですが、その中にあって『名探偵コナン』は、そういう要素があるから、ほかと比べて対象年齢が少し上になっています。

ほかが未就学から小学校4年生ぐらいまでがメインのターゲットなのに対し、『名探偵コナン』の場合、それ以上の中・高校生もターゲットに想定されています。

それに加えて、劇場版が四半世紀も続いたおかげで、社会人になっても年1回の楽しみに『コナン』を観に行くという人がいる。ファン層が厚くなっていて、基礎票がものすごくある作品なんです。

またちょっと視点を変えると、『名探偵コナン』は「探偵もの」というジャンルで、それも人気に繋がっていると思います。というのは、犯人は誰だ?ということでストーリーを牽引するジャンルなので、第一に、あまり主人公であるコナンのキャラクターを変化させなくてもいい。

主人公のドラマを描こうとすると、主人公がなんらかの変化(精神的成長とか)をしなくてはならなくなりますが、精神的成長をしてしまうとそのキャラクターは主人公としての役割を終えてしまうので、そういうことをしなくてもストーリーが展開できる構造に最初からなっている。でも、かといって主人公はそのままで、ゲストキャラクターのドラマを追いかける形になると、主人公がお飾りになりすぎてしまう……。

『コナン』の場合、コナンは探偵というポジションで狂言回しでありつつ、お話の本流にはしっかり絡むことができるんです。

しかも、基本はミステリーなので観客は終わった後、「結局あの人が犯人だったな」という納得感、満足感があるんです。1本のまとまった物語を見たなという快楽を得やすい構成になっているわけです。

あと大ヒット作に成長した過程で注目すべきはアクションの派手さですね。もともと『名探偵コナン』の劇場版といえば爆発がウリだったわけですが、15作目以降あたりからはそれが顕著になっています。こういう大規模なアクションは、実写邦画では割と少ないですし、場所を変えて何度もアクションをするというのは、アニメだからこそ実写よりも派手にいろんな場所を舞台にできる。邦画で派手なアクションを見たいと思ったときに、『名探偵コナン』ならそのニーズに答えてくれるわけですね。

今回の劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』も本当におもしろい出来栄えです。先ほど、探偵ものはキャラクターを変化させないでいいといいましたが、その枠組みをキープしつつ、『コナン』は、できる範囲でキャラクターの感情そのものはいじってきます。特にコナン(=その正体は高校生探偵・工藤新一)のヒロイン蘭に対する感情などに触れて、狂言回しにとどまらないドラマ性を感じさせてくれることも多いです。

そして、今回はレギュラーのひとり、灰原哀を中心に据えて、彼女の過去やそれに対する思いを掘り起こす、いい話になっています。

ヒット作は計算で作れないが、計算のないヒット作もない

『コナン』は、原作漫画とテレビアニメと劇場版、この3つが完全に歩調を合わせています。20作目の『名探偵コナン 純黒の悪夢』は、それまで40億円台だった興行収入が、60億円を超えて、今のようなメガヒット作になるきっかけとなった作品ですが、この作品では、安室vs赤井がウリでした。振り返ると、安室透の原作初登場が2011年なので、5年越しでネタを仕込んだことになります。その上で、劇場版20作目が見えた時点で、そこに向けていろんな仕掛けが集約する大きなピークを作ろうとして、それが安室VS赤井だったのだろうと思います。

今回も25作という節目作品なので、その節目にふさわしく黒の組織と灰原哀を深堀りしようということが決まったのだろうと思います。そこに、赤井さんと安室さんも絡めて、オールスター的な趣もありました。個人的には、灰原哀の保護者的立場である、阿笠博士が彼女を救うためにマジでカーチェイスするところが、スペシャル感があってよかったです。ヒット作は計算では作れないけれど、計算のないヒット作もないということだと思います。

このように劇場版『名探偵コナン』は探偵ものというジャンルの長所、作品が長く続いたことによる客層の厚さ、そこにファンが満足できるアクションやドラマの追求。この厚みがあって、今回のような興行収入100億円に繋がるようになったと思います。

安室透が“100億の男”といわれていますが、2018年の『名探偵コナン ゼロの執行人』で91.8億円まで伸びて以降、『名探偵コナン』は90億円を切ってないんですよ(コロナの影響を受けた『緋色の弾丸』は70億円台ですが、これも大ヒットではあります)。なぜこんなにヒットするか、そこを考えながら映画をお楽しみいただくのもいいのではないでしょうか。(2023年5月8日放送)

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