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日本は極まる少子高齢化で労働力不足に直面しています。でも、労働力人口は増えているそうです。

働く人口は増えている!?

「日本はもはや経済成長しなくていい」との持論で知られるエコノミストの水野和夫法政大教授(現代日本経済論)。通勤のカーラジオから流れて来た水野教授の解説に「へー、そうなの」とつぶやいてしまいました。極まる少子化で若年層の働き手は減っても、働く女性と高齢者の増加が若年労働力人口の減少を補っている。日本は人手不足だけれど、働く人は増加傾向なのです-。

総務省統計局のデータを確認しました。2023年の労働力人口(15歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)は6925万人で、確かに前年比23万人の増加でした。ここ10年間のデータでは、45歳未満では減少傾向が顕著である一方、65歳以上は増加基調。女性に限れば10年間で約300万人も増えていました。

ただ、水野教授の解説に気になるところがありました。「高齢者が参入できる業種は限られている」と指摘され、働く高齢者が増えても、働く期間が長くなっても人手不足は解消できないとの説明です。高齢者人口の増加もやがてピークを迎え、もとより肉体労働は厳しい。高齢者の就労意欲に頼った労働政策は中長期的に採用できないとの趣旨でした。この考え方、皆さんどう受け止めますか。

私は、シニアを時短勤務の安価な労働力として評価していると感じました。旧態依然の雇用形態、労働環境を維持したまま、欠落した労働力のピースにシニアを押し込むのなら、人手不足の打破に展望を開くことができないのは必然ではないでしょうか。

年齢による違いが消える?「消齢化」とは

博報堂生活総合研究所(生活総研)は昨年、生活者の価値観や考え方の年齢による違いが小さくなってきているとの研究成果を「消齢化社会 年齢による違いが消えていく! 生き方、社会、ビジネスの未来予測」(集英社インターナショナル)として発刊しました。キーワードは「消齢化(しょうれいか)」。30年に及ぶ定点観測調査で蓄積したデータを解析しました。

消齢化の考え方は、生活の豊かさや社会経済のしきたり、ビジネスの成功モデルに、年齢層や性別によるカテゴリー分けがどれほど寄与しているのかを抜本的に見直すよう迫っています。生活総研の調査では「ハンバーグが好き」と回答した60代は、2000年代初頭は20代の3分の1ほどでしたが、いまは20代と同レベル。食べ物もファッションもカラオケの選曲も、人気あるコンテンツは世代を超えてフラットに存在しているとのこと。

「皆と同じ」の世間体を大切にすることが地域コミュニティーでの住みやすさに直結してきましたが、「私なりに、自分らしく」「時に、他人とは違いがあってもいい」と考える人が増えれば子や孫と同じファストフードをほおばっても、親子で同じデザインのファッションをユニクロで買い求めても違和感はない。「いい年をして」「年齢相応の立ち居振る舞いを」「そろそろ○○適齢期」などの価値基準がその意味を失っていく社会では、むしろ年代を越えた「同じ」に着目することで新しいマーケットが見つかるかもしれないと、示唆に富んだ分析がありました。

最近、「シニア世代の推し活」を論じたコラムを読みました。小学生の娘にせがまれて訪れたコンサートでメインボーカルからもらった「ファンサ(ファンサービス)」の指さしの“直撃”に感激してから20年余。シニアに突入したいまも、そのボーカルの推し活を続けているとの話がつづられていました。「推し20周年」でドームコンサートに駆け付けたくだりでは、「間近の席が当たり涙腺崩壊、昔の感動も重ねて押し寄せてきました。体中の毒素を発散させデトックス効果大!」とありました。アラサーになった娘と喜びを共有したといいます。推し活で脳と体に適度の刺激を与え続ければ健康寿命が伸びそう。シニア世代が推し活に投じる金銭は若者とはけた違い。消費拡大や経済効果への影響も期待できるとコラムは分析していました。

超高齢社会でシニア層は労働力であり、かつサービスや品物の受給者、消費者でもあります。自由な時間配分の中で、経験を生かして社会と関わり合いたいと願うシニアに適した働き方を工夫すること、それにより高齢者のQOL(Quality of life=生活の質)を高めることにつながれば、老若男女に優しい、持続可能な労働政策につながるはず。現状では、シニアがハローワークに出向いても、就業可能な仕事がなかなか見つからない現実があります。事業者側はシニアも労働力と成り得る就業条件、あるいはシニアならではの力が発揮できる仕事を工夫する必要があります。仲介する機関は、そうした事業者とシニアを柔軟につなぐ役割が求められます。

人口減を国力や生活の豊かさの減退につなげてはなりません。労働力は奪い合うのではなく、掘り起こし、状況によってシェアリングする発想が必要なんだと思います。大企業やメーカーに埋もれている人材はいないでしょうか。労働力の流動化に皆で知恵を絞りましょう。

水野教授はなぜ「成長しなくていい」と訴えているのか

人口もエネルギー消費も増大し、モノがあふれる従来型の経済成長の概念はもはや持続可能ではないとの思いがあるからです。都会から中山間地まで地域住民の生活基盤となっているコンビニエンスストアは全国的に飽和状態。新規出店は需要を掘り起こすというより、市場を奪う業界内の“共食い”を引き起こす状況です。裏返せば、コンビニが提供するサービスや価値は、そのカテゴリーに限れば、いまある資本で需要を満たす「理想の社会」を実現していると水野教授は指摘します。

アパレル業界では年間40億点の衣料品が製造され、半数近くが売れ残り、廃棄される。食料品も2割が廃棄されています。ネットで注文すると即日、品物が届くサービスは真にそれを必要としている人がどれだけ居るのか。一部の過剰とも言えるサービスが、見劣りを恐れる同業他社の多忙化を引き起こしている可能性から目を背けてはならないと教授は警鐘を鳴らしています。

GDP(国内総生産)は国民の幸福度を測定する指標ではないとの議論は歴史的に繰り返されてきました。経済指標の上での「成長」を真の豊かさにつなげるために、アラ還世代だからこそ経験に裏打ちされた知恵と発想で、年齢で輪切りにされない社会の姿を提言していきませんか。


中島 忠男(なかじま・ただお)=SBSプロモーション常務
1962年焼津市生まれ。86年静岡新聞入社。社会部で司法や教育委員会を取材。共同通信社に出向し文部科学省、総務省を担当。清水支局長を務め政治部へ。川勝平太知事を初当選時から取材し、政治部長、論説委員長を経て定年を迎え、2023年6月から現職。
 

静岡新聞SBS有志による、”完全個人発信型コンテンツ”。既存の新聞・テレビ・ラジオでは報道しないネタから、偏愛する◯◯の話まで、ノンジャンルで取り上げます。読んでおくと、いつか何かの役に立つ……かも、しれません。お暇つぶしにどうぞ!

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