
そもそも「関係人口」とは?
吉田:関係人口とは、簡潔に言えば「移住した定住人口でもなく、観光に来た交流人口でもない、地域と多様に関わる人たち」を指す言葉です。都市の若い世代を中心に、地方の魅力に共感して楽しそうに活動している人がいる。こうした新しい価値観に、「ソトコト」編集長の指出一正さんやローカル・ジャーナリストの田中輝美さんらが着目し、雑誌や本などで取り上げたのが始まりのようです。
静岡県が関係人口創出・拡大事業に取り組んだ背景は?
吉田:静岡県に限らず地方では、人口減少や高齢化により、地域の担い手不足という深刻な課題に直面しています。数原:国全体の人口が減っていく中で、決して多くない移住者は地域間での取り合いになってしまうんですね。そこで、今の時代に合った新しい答えとして、「関係人口」に着目しました。地域と関わる人たちを増やすことで、地域の活力を上げていこうといった取り組みです。
吉田:関係人口の実態調査として県が令和2年10月に行ったアンケート調査(図1参照)では、子育てやまちづくりなどのテーマ型地域活動に参加したことがない人が8割いる中で、「活動はしていないが興味・関心がある」と答えた人が半数を占めました。さらに、興味・関心がある人の支障となっているのが、「情報の入手方法・参加の方法がわからない」ことでした。
地域活動への参加ニーズはあるのに、情報不足により参加に至っていないことが分かりました。こうした人たちに、一歩を踏み出してもらいたいと思っています。

図1(注:テーマ型地域活動には、自治会などの地縁団体の活動は含んでいない。)
静岡県の関係人口創出・拡大の具体的な取り組みは?
吉田:コロナ禍で、生活様式や働き方が大きく変化し、特にリモートワークの浸透により、二地域居住やワーケーションなどのニーズが高まっており、関係人口が増加しつつあります。このため、地域づくり人材を求めるNPO法人やまちづくり団体と、地域活動への参画を考えている個人や企業などをマッチングするコーディネーターを配置したり、地域外の人材が参加しやすい「新たなコト」づくりの支援を行ったりしています。
数原:2020年11月27日に静岡県の関係人口情報ウェブサイト「SHIZUOKA YELL STATION」(シズオカ エール ステーション)を開設しました。静岡県内の地域づくり団体や活動事例、プロジェクトやイベント情報を掲載し、その取り組みに参加したい個人や企業・団体のマッチングを目指しています。
静岡県の関係人口事業の特徴は?
吉田:静岡県では「地域づくり」に主眼を置いて取り組みを進めています。関係人口の捉え方は自治体によってさまざまで、例えば、ふるさと納税で応援する人たちを関係人口として捉えている自治体もあります。
もちろん、そうした関わり方も関係人口の一つであることに間違いないのですが、静岡県では、実際に地域に来て、地域で活動する人たちに着目しています。
数原:わかりやすい事例でいうと「棚田オーナー制度」です。
棚田のオーナーとなった人たちは、田植えや草刈りなど年に数回その地域に足を運ぶうちに愛着が増し、第二の故郷としての思いを持たれるようです。一方で受け入れる地域の人たちも、彼らが来ることによって、積極的に活動に参加しようと思うようになります。
地域と関わりたい人(関係人口)も地域の人も元気になる。実際に地域に来て活動することで、地域との関わり深度は増し、比例して愛着も高まることを期待します。
「関係人口」をはじめるには?
数原:県内ではたくさんの団体が活動しています。はじめの一歩として「SHIZUOKA YELL STATION」をご覧になってみてはいかがでしょうか。SHIZUOKA YELL STATIONは、地域と関わりたい人と、協力者を募集したい団体をつなぐウェブサイトです。地域とつながるヒントが満載で、掲載されている活動に参加申し込みができます。メンバー登録すると、関心がある分野の団体の活動情報もメールで届きます。吉田:参加しやすい活動としては県内各地で行われているビーチクリーンがおすすめです。釣り好きの人たちが集まって、定期的に開催しているビーチクリーンでは、釣り情報の交換ができますし、ジョギングしながらゴミを拾う「プロギング」という取り組みでは、地域の環境を良くするとともに、自身の健康も良くできます。いずれも、仲間づくりになり交友が広がりますよ。今ご紹介した取り組みは、「SHIZUOKA YELL STATION」でも参加者を募集していますので、ぜひチェックしてみてください。
今後の課題やビジョンは?
数原:先ほどのアンケートで、「活動参加に期待していること」の問いに対して、一番多かった答えが「人との交流」でした。「社会・地域貢献」を上回っています。静岡県としては関係人口の活動が何より、人との出会いや交流を生む「場」であってほしいと考えています。
吉田:突然ですが、「サードプレイス」という言葉をご存知ですか?サードプレイスとは、自宅でも職場でもない、居心地のいい「第三の居場所」のことです。アメリカの社会学者であるレイ・オルデンバーグさんが提唱したもので、独自のサードプレイスを持つことで、人生がより豊かになると伝えています。
「地域活動=居場所づくり」と捉えていただければ、はじめの一歩を踏み出しやすいかもしれません。あまりかたく考えずに、ご自身の趣味や特技を生かして、楽しみながら地域とつながっていただければと思います。
一方で地域団体の皆さんには、プロジェクトに「場」をつくる要素を加味してもらえると、外からの協力を得やすいと思っています。
数原:今現在、75の地域づくり団体がSHIZUOKA YELL STATIONに登録しています。今後はその数をもっと増やす活動に加えて、団体同士が交流できる機会を設けて、ネットワークの拡大や新しいプロジェクトを生む場として、役立てていただけたらと考えています。
▼SHIZUOKA YELL STATIONのメンバー登録(オリジナルWAONカード交付中!)
https://shizuoka-yellstation.com/entry
▼アンケート調査について
令和2年度第10回県政インターネットモニターアンケート(静岡県)
http://www.pref.shizuoka.jp/kikaku/ki-120/e-monitor.html