テーマ : 台風15号(2022.9.23-24)

荒廃茶園をワサビ田に 静岡県が基盤整備計画 災害リスク抑え安定生産へ 葵区中山間地

 昨年夏の台風15号で甚大な被害を受けた静岡県産ワサビの安定生産に向け、県は2024年度から静岡市葵区でワサビ田の基盤整備に乗り出す方針を固めた。新たな造成地として活用するのは、価格低迷や生産者の高齢化で荒廃が進む同市中山間地の茶畑。ワサビ栽培発祥の地で知られる有東木地区を含めたオクシズ一帯で、今後数期に分けて継続的なワサビ田の整備に向けた検討を進める。

ワサビ田を造成する計画の茶畑=11日、静岡市葵区
ワサビ田を造成する計画の茶畑=11日、静岡市葵区
3年前にコンクリートで整備したわさび田=11日、静岡市葵区
3年前にコンクリートで整備したわさび田=11日、静岡市葵区
ワサビ田を造成する計画の茶畑=11日、静岡市葵区
3年前にコンクリートで整備したわさび田=11日、静岡市葵区


 市街地から車で約50分。同区内匠(たくみ)地区の曲がりくねった細い山道を進むと、枯れた赤い葉が所々に目立つ茶畑が広がる。今年の一番茶を最後に生産を終え、今は誰も管理していない。「この辺りには荒廃茶園がいくらでもある」と安倍山葵業組合の出雲清教組合長(60)。機械作業に向かない傾斜地の茶園管理は高齢農家にとって負担が大きく、価格の下落も相まって耕作放棄地は増えているという。
 この茶畑は24年度、県の事業でワサビ田に生まれ変わる予定。地元農家の海野延夫さん(62)が地権者から約1千平方メートルの土地を借り受け、コンクリート施工のワサビ田に近くの沢から引いた水をかけ流す。3年前に別の耕作放棄地を活用して始めたワサビ栽培も順調で、「台風で流される心配がない。良質な水が近くを流れ、高品質のワサビが育っている」と語る。
 渓流沿いなどに石を積み上げて造る伝統的な畳石式のワサビ田は、大雨による増水の被害を受けやすい。昨年の台風15号では土砂の流入、流出で崩れるなどしたワサビ田は24件あり、被害額が約4億4千万円に上った。県は生産者から要望を聞き取り、安定生産が続けられる環境整備の検討を重ねてきた。
 茶畑をワサビ田に転換する基盤整備事業は初の試みで、造成費用の9割程度を国、県、市が補助する方向。来年度に内匠と梅ケ島の両地区で造成に乗り出し、その後も数カ所を計画している。出雲組合長は「傾斜地の高低差を生かせば、水ワサビの栽培に欠かせない水流をうまく作れる。安定生産につながる」と期待を込める。
 (経済部・金野真仁)

静岡県ワサビ生産量 全国トップも減少傾向
 県内のワサビ栽培は伊豆地域と静岡市北部のオクシズで盛んに行われ、一般に流通する水ワサビの根茎は全国トップの生産量を誇る。「静岡水わさびの伝統栽培」は2017年に日本農業遺産、18年に世界農業遺産の認定を受けている。 photo01 静岡県内水ワサビ(根茎)の生産量と栽培面積
 一方、栽培面積や生産量は減少傾向をたどっている。林野庁の統計で、本県の根茎の生産量は17年に246トンだったが、台風15号の被害を受けた22年は217・8トン。伝統的な畳石式のワサビ田は新規造成が難しく、農家が高齢化し、後継者も不足していることなどが響いているとみられる。渓流沿いでのワサビ栽培は機械化も進めにくく、安定生産が課題となっている。

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