
アニメに見る都市とビルの移り変わり
アニメにおいて印象的なビルといえば、『マジンガーZ』の光子力研究所は間違いなくその一つに入ると思います。「入」の漢字のような特徴的なシルエットは、近くにそびえる富士山のシルエットを踏まえたものだそうです。『新世紀エヴァンゲリオン』の「第3新東京市」は、『マジンガーZ』のこの光子力研究所が街になったような都市でした。『マジンガーZ』は、敵の機械獣が光子力研究所の秘密を奪うために攻めてくる設定です。ですので「研究所」といっていますが、機械獣を迎撃をする武装もそれなりに備えています。こういう発想を、90年代風にアップデートして、「地下にあるアダムを狙って使徒が攻めてくる」という設定にした結果、生まれた存在が第3新東京市というわけです。
ビルからミサイルが発射されて迎撃するというアイデアも、光子力研究所の防衛システムの子孫という感じです。そんなふうに光子力研究所の1972年の『マジンガーZ』と95年の『新世紀エヴァンゲリオン』が建物関係でも繋がっているんです。
ビルは都市描写と常にセットになっています。押井守監督が「ある時期までのアニメは都市というのは匿名的で、大都市が描かれていればそれはなんとなく“東京”であると理解されていた」と言っています。しいていうなら東京タワーっぽい塔が描かれているぐらいの、匿名的な都市表現・ビル表現の中から、これはおそらく東京であろうと、観客は暗黙の了解を受け取っていたわけです。
一方、SFなどではそういうリアルな東京の風景とは別に、SFらしい風景が出てきます。特にインパクトが大きかったのは松本零士さんのデザインワークですね。『銀河鉄道999』のビル街には途中でオーバーハングになっている超高層ビルがたくさん建っていたのですが、あの独特のシルエットは非常にSF感が出ていてインパクトがありました。
80年代になると次第にリアリズムがアニメの中に入り込んでくるようになります。83年の『幻魔大戦』というアニメでは東京の西新宿のビル街が描かれていました。80年代前半、西新宿のビル街は大都会東京のアイコンで、特撮ものや刑事ものでもよくロケ地に使われていました。
『幻魔大戦』では西新宿の夜景をロングで撮って近代都市をリアルに描き、インパクトのある画面を作っていました。新宿のその他の場所もかなりリアルに描いていて、そういう意味では、リアルにビルを描くことの先駆けに近かったのかと思います。建物を特定できるほどではないのですが、印象としてかなり寄せていました。
同じ年の『聖戦士ダンバイン』第16話「東京上空」では、新宿でバトルがあり30万人が死ぬという展開があるのですが、こちらでも明らかに西新宿のあのビルだなとわかるような表現が出てきます。
こうしたリアリズムが徐々に進んで2000年代に入ると、ビルをある程度リアルに描き、どこの都市が舞台になっているかを明確に描くようになります。
こうしたリアリズムに基づいたビル描写とは別に、アイコニックな存在としてのビルというものもあります。例えば2000年代前半では、IT関係の起業家などが多く住んで、ヒルズ族なんて言葉も生んだ、六本木ヒルズが非常にインパクトがありました。
2006年の『ワンワンセレプー それゆけ!徹之進』というアニメでは主人公でトイ・プードルの徹之進と飼い主の犬山一家は八本木ヒルズに住んでるという設定。当然六本木ヒルズがモデルになっています。2005年の『SPEED GRAPHER』という異能バトルものでは、超大金持ちの家が六本木ヒルズのようなビルの一番上にありました。2000年代前半では「お金持ち=六本木ヒルズ」という感じで使われていたんですね。
あともう一つ、別の切り口でビルが出てくるのは『シン・エヴァンゲリオン劇場版』です。ゲンドウが乗る13号機と、シンジの初号機がいろんな空間でバトルをするのですが、東宝の特撮撮影ステージでバトルをするシーンがあります。ここは撮影現場なので特撮映画用のビルが出てきます。特撮用のビルは固定されておらず、自由に置き換えて撮影できるようになっているのです。だがら13号機と初号機のバトルでビルにぶつかるとCGで描かれたビルがスーッと動いてしまいます。特撮で見ているビルが突然アニメの中に、3DCGによる描写として出てくるので、こちらもなかなかユニークな“ビル”だなと思います。