進化するアニメの“宇宙描写”!どこまでリアルに描くべき?


SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回はアニメの宇宙描写についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

宇宙空間を効果的に表現する

アニメというのはフィクションで、ドラマを伝えることが一番の目的なので、基本的に嘘をつくのが前提です。ただ、どれくらい嘘をつくのか、リアルにやるかは作品ごとにいろいろなさじ加減があり、それがわかるともっと面白く作品が見られます。

例えば、昔『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(1978年)というアニメがありました。ラストシーンで、ヤマトが遥か彼方へ特攻すると、遠くで小さく爆発してピカッと光る、その光に遅れてヤマトが沈む音が聞こえてくるというシーンがあります。

光の方が音よりも速いという事実を使って、非常に感動的なラストにしていたのですが、ご存知の通り宇宙では音は聞こえません。もちろんわかった上で制作スタッフは行っています。でも、そうやってフィクションならではの表現を入れたことで、多くの人の心に残るラストシーンができあがりました。

一方、宇宙空間で音が聞こえないというのを一番リアルに表現したのは『プラネテス』(2003年)です。『ONE PIECE FILM RED』も手がけた谷口悟朗監督が作った宇宙開発ものなのですが、このアニメでは宇宙空間にカメラがあるときには音がありません。宇宙船がエンジンを吹かしても、映像に発射音はついてないんです。ただ、カメラが宇宙服のヘルメットの中にあったり、宇宙船のブリッジの中にあるようなカットではちゃんと音が聞こえます。

谷口監督に「音をつけない演出」についてインタビューで伺ったんですが、やはり冒険だったようです。もしかするとうまくいかないシーンが出てくるんじゃないか、という懸念もなくはなかったけれど、最終的には最後まで「宇宙空間は無音」でやり切れたとおっしゃっていました。

見ている人の意識によって違和感が生まれてしまう「宇宙空間のリアル」

宇宙空間の特徴に、もうひとつ無重力というのがあります。画面を見ると、アニメ的には効果的に使われていることが多いです。ガンダム・シリーズでは宇宙船の中でも、無重力エリアの人々はみんなプカプカと浮いています。移動するときにはワイヤーガンを使って、目的地にワイヤーを打ち出してそれに捕まって移動しています。

ですので、無重力はまだ描きやすいのですが、厄介なのは低重力です。重力はあるけど弱いという状態ですね。例えば月は地球の6分の1の重力なので感じる重さは6分の1、火星だと半分です。火星はそこそこアニメで舞台になっていますが、重力が半分になっている描写は採用されていません。というか、ハリウッド映画でもそこは「なかったこと」にして描かれていますね。というのも、低重力を真面目に描写しようとすると、地球の物理法則と違いすぎて、映像として間違っているようにしか見えないのです。だから、あえて低重力の様子を描くときも、印象に残るポイントだけそのように描いて、あとはそこまで強調しないことが多いです。

そんな中、低重力描写ですごいなと思ったのはNetflixで見られる『地球外少年少女』(2022年)です。主人公たちが宇宙ステーションでいろいろな危機に見舞われるという話なんですが、宇宙空間のスペースコロニーが舞台なので、回転による遠心力で重力が作られます。スペースコロニーの場所によって重力が地球に近いところと、もっと大きいところと、それから火星くらい小さいところといった感じで、少しずつ重力が違うのを描き分けており、これはすごいなと思いました。

あと宇宙は真空であることの影響として、遠くのものがすごくクリアに見えるんです。空気遠近法的な遠近感がまったくない。例えば月から地球を見た風景も、Photoshopで切って貼ったのでは?というようなクリアさなんです。

そのことが高性能なカメラが宇宙に持っていけるようになり誰でも見られるようになったので「リアル」をみんなが知るようになりました。でもだからといって、アニメでそういうクリアな絵を作っても、ペラペラに見えるだけで「リアル」には見えない。なかなか難しいところです。

宇宙描写はガンダムのころから少しずつ進化していますが、宇宙開発によってわかったことをそのまま表現したらリアルかというと、そうでもない。結局、リアルというのは見てる人が抱く「本物っぽい」というイメージなんです。だから、科学的な事実とフィクションの嘘と両方を知っていると、作り手がどんなバランスで「リアルな宇宙」を描こうとしているかが見えてきて、また別のおもしろさが感じられると思います。

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