【追悼、柏原満さん】『サザエさん』『宇宙戦艦ヤマト』を手掛けるアニメ効果音の第一人者


SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は音響効果技師の柏原満さんについてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

誰もが耳にしたことのある効果音を作った第一人者

今日は2024年11月6日に亡くなられた音響効果技師、柏原満さんのお話をしていこうと思います。

柏原満さんは1933年生まれ。テレビアニメの黎明期から音響効果の仕事に従事。我々が一番耳にしているのは柏原さんの音は、恐らく『サザエさん』の効果音でしょうか。柏原さんが作った効果音のアーカイブはデジタル化され今も使われているので、柏原さんの音は今でも生きているのです。

もともと柏原さんは映画の仕事に憧れて、映画音響の仕事をしている「アオイスタジオ」でミキサーをやっていました。ミキサーというのはアフレコで音量が適正になるように調整などをする技術職です。ほかにもアフレコの後の音の整理――入っていたノイズを切って、映像につけるためにふさわしい形にしていく――とか、最初はそういう仕事をしていたそうです。

1963年に『鉄腕アトム』が始まりました。実写には同時録音といって現場で撮ってきた音がありますが、アニメの音はゼロから全部作らなきゃいけないですよね。アトムはフジテレビが放送のキー局だったので、役者のディレクションはフジテレビプロデューサーの別所孝治さん、それ以外の音要素をコントロールしていたのが、効果音をやっていた大野松雄さんでした。

大野松雄さんは、効果音だけでなく、電子音楽の世界にも大きな影響を与えました。オシレーターという一定の周波数を出す機械や、モジュレーターという音を変調させる機械などを使ってアトムの音を作っていました。アトムはSFなので、実音っぽいものやアトムに合わないものは電子的に加工して作っています。アトムが歩くピコピコピコという音もマリンバの音を加工して作られたそうです。

柏原さんは第三話からミキサーとしてアトムの現場に入り、そこで効果音に興味を持つようになったそうです。

昼間はミキサーの仕事をしながら夜は大野さんのところで一緒に音作りの勉強をし、音響効果として歩み始めました。

ちなみに、当時アニメの監督というのは、アフレコやダビングに立ち会っていませんでした。映像を作るのに精一杯で、音の現場まで行っていたら間に合わないからです。なので、監督が考えている音のイメージを現場で作り、監督が判断できないところは率先してディレクションしていく音響監督が必要となってくる――。そう考えたのが、『鉄腕アトム』で柏原さんと仕事をしていた田代敦巳さん。彼がアニメ専用の音響制作会社が必要だと考え「グループ・タック」という会社を作ります。

後に映像制作も手掛けるようになるグループ・タックですが、まずは音響の会社としてスタートし、庵野秀明氏が監督をした『宇宙戦艦ヤマト』の音響を担当します。柏原さんも音響効果技師として参加しました。庵野監督は効果音にもこだわりがあり、同じく監督をした『不思議の海のナディア』のクライマックスに出てくるN-ノーチラス号の主砲の音にも『宇宙戦艦ヤマト』で作った柏原さんの主砲の音源を使っています。そうやって柏原さんの音は現代に繋がっているんです。

今回の訃報を受けて、庵野監督が代表を務める株式会社カラーからもXで柏原さんについて投稿がありました。柏原さんはアニメ音響が立ち上がる時代から音響効果に興味を持って仕事をされて、師匠が大野さんというのもあって、生音だけじゃない特殊な加工をした音が得意でした。

『サザエさん』のタラちゃんが歩く音も接地音ではないですが、それがキャラクターを表している。宇宙に実際には音がなくても『宇宙戦艦ヤマト』では、音を作り、それがスケールの壮大さを表しています。戦艦ヤマトの主砲も回転音みたいな音がして、これもすごく味があります。そういったものをたくさん作られてきた柏原さんは、アニメの効果音において時代を築いた、大きな足跡を残された方だったなと思います。

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