20世紀の作品なのに、圧巻のクオリティ!海の描写がスゴい名作アニメ

SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は「海の描写がスゴいアニメ」についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

あの波はどう描かれた? 名作に見るアニメの海表現

海の描写がスゴい作品としてまず挙げたいのが、1940年のディズニー長編第2作『ピノキオ』です。おじいさんとピノキオが鯨の腹から逃げ出すシーンに登場する海、その波の描写が圧巻なんです。

絵を描く際、我々は存在しない輪郭線を見つけて線を引いていますが、波や煙のように境界が常に変化するものは、どの線を拾うとそれらしく見えるかが非常に難しい。デザイン的に様式化して描くのか、もう少し写実に寄せるのか、そのバランスも重要です。海はとても描きにくい題材なんです。

そもそも水自体が難しいのに、それが大量に動く。しかも海は大きいので、普通に描くとスケール感が出ません。ところが『ピノキオ』では、波が盛り上がって崩れ白い泡になる様子を、驚くほど細かく観察し、その形で表現しています。特に砕けていく波頭の描写は、人間が描いたとは思えないほどの緻密さです。その上で、波頭の部分は非常に細かく特効(セル画の上にさらに絵の具で質感などを加える処理)で泡の感じを出し、海面そのものも、さらに色鉛筆で処理が加えられています。この波の表現は今もなお圧倒的で、1940年にしてすでに「究極の答え」の一つが示されていると思います。

日本の作品では、61年の『安寿と厨子王丸』があります。姉の安寿が海辺を歩くシーンで、打ち寄せる波が非常にリアルに描かれています。波は海岸に近づくと山の形を保てず崩れていき、波頭が薄く伸びて、すっと引いていく。そして、引き波と新たな波が交錯する。この一連の基本的な波の動きを、どの線で拾えば本物らしく見えるかが考え抜かれています。

このシーンを描いたのが、のちに『ルパン三世』や『未来少年コナン』を手がける大塚康生さん。アニメのテイストに合わせてリアルに描かれていて、波打ち際に薄く伸びる波や引き波の表現が非常に丁寧。まさに観察の賜物です。どこの線で拾ったら波がリアルに見えるかもよく考えられています。この映画自体は割と評価が分かれる作品なのですが、全体的な絵のクオリティが高いので、そういう見応えはあります。

この10年後の71年、東映の『どうぶつ宝島』は、動物のキャラクターが登場する冒険もので、『宝島』という題材だけに海がたくさん出てきます。キャラクターデザイナーの小田部羊一さんが池田宏監督に、シンプルだけど「波らしさ」が感じられる表現をと依頼され、一日中海を観察し、盛り上がる波の部分に網目模様のようなパターンを重ねる手法を編み出します。これがやがて、日本アニメの海表現の定番スタイルになります。様式化されつつも、雰囲気がしっかり伝わるのがスゴいところです。

74年の『宇宙戦艦ヤマト』では、ヤマトが冥王星の海に沈む場面の波が圧巻です。作画監督の芦田豊雄さんはエフェクトの名手でもあり、波にいれるタッチ、水しぶきの形、波頭に白い絵の具を散らすような効果など、細かな指示をサンプル付きで用意。ヤマトが沈んで再び浮上するシーンでは、その演出が最大限に活かされています。

75年の『ガンバの冒険』第2話には、ネズミのガンバが初めて海を見る場面があります。セル画で波を描いてもスケール感が出なかったため、背景を描く美術スタッフに依頼し、ポスターカラーで質感豊かに描いてもらったそうです。背景美術だとポスターカラーで描いているので、タッチが入るしディティールも深くなり、質感が出るというわけです。背景美術というのは普通動かないものなのですが、4枚の背景を置き換えていけば動いて見える、ということで、質感を持った波を動かすという工夫をして、ネズミが見上げる「大きな海」のスケール感が出ました。

現在では、エフェクト作画が進化し、さまざまなスタイルで海を表現できるようになっています。いろんな作品を見比べてみると面白いと思います。

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