
熱を伝えられない映像作品で「暑さ」を伝えるには?
暑い日が続いていますので、今日はアニメで暑さを表現するときに、どんな方法が使われるのかを考えてみたいと思います(2025年9月8日放送)。映像作品は基本的に4DXのように座席を温めるとかで、温度を直接伝えられるわけではないので、いろいろな表現を使って「暑さ」を感じさせています。その技を見ていこうと思います。キャラクターの「ポーズ」で表現
キャラクターが暑い場所に立っているシーンを想像してください。まずキャラクターのポーズなどの描き方で伝わることがあります。日差しを遮るように手をかざす、髪が汗で張り付いている、という描写ですね。当然、汗をかいている描写もありえます。ただここが難しいところで、アニメの汗は、緊張などの感情表現に使われることが多いんです。だから、どこに汗を描くかで、暑さではない絵に見える可能性もある。また、スポーツやダンスの後にも汗の描写はでてきます。こちらは顎や髪先から汗がしたたるほどの描写が多く、これはこれで「暑さ」の表現とは少し異なります。
肌や髪「色」で表現
次に「色」の表現があります。普通はキャラクターなどの色を決める色彩設計の段階で、昼間の太陽光の下では肌の色はこれ、髪の色はこれ、影が落ちているときの肌や髪の色はこれと決めています。その色よりもう一段濃くすると、影が濃いことで日差しが強く見えるんです。また影の色を少し赤寄りにするなど、色を微妙に重ねることで、暑苦しい照り返しを表すというテクニックを使ったりもします。さらに肌などにハイライトを入れることもあります。一番明るいところをもっと白く寄せて、日差しの強さを表すわけです。
顔のほてりを出す「頬ブラシ」というテクニックもあります。頬をピンク色でぼかす方法ですが、これも「汗」と同様に難しく、照れているように見えてしまうこともあります。コメディタッチの作品だと、顔が紅潮していてちょっとHなシーンかな?と思ったら、実は暑いだけだった、なんてことにも…。
白っぽく飛ばして「背景」で表現
あとは背景で、日差しが強いときは、全体を白っぽく飛ばして描くことがあります。木々の緑もかなり白っぽくするし、地面も茶色より白に近い色にします。そうすると、いわゆる「露出オーバー」したような風景になります。そこにキャラクターを少し影のような色で重ねると、背景の光が強すぎて、人物の露出がアンダーになったように見えて、これもそれでも暑い空気、夏らしさが強まります。ただ、全部がそうだと画面が単調になってしまうので、ケースバイケースで使い分けられています。入射光に陽炎…「光」で表現
ほかに光の効果もあります。伝統的な方法に「入射光」がありますが、これは画面の斜め上から放射状に光を入れて、きらきらした日差しを表す方法です。それから「ハレーション」。カメラのレンズ内で光が広がって六角形の模様になる現象です。光が差すという表現で漫画でも描かれることが多く、光が強いという印象を強めます。
そして夏といえば「陽炎(かげろう)」ですね。今ならAfterEffectsで似た効果を出せますが、昔は波ガラスというグネグネ曲がったガラスを少しずつ動かしながら、そのガラスを通して歪んだ映像を撮っていました。ガラスではなく、2枚の透明フィルムの間に透明な油をはさんで封をして自然にムラを作る方法もありました。そうやって歪んだ風景を作り出し、白飛びした背景や望遠レンズで撮ったような圧縮された風景と組み合わせれば、一気に暑い感じが出ます。
「音」でも表現できる?
打ち合わせのときに、音で暑さは表現できるかという問題提案が出たので考えていたのですが、なかなか難しいですね。蝉の声は季節を表していますが、必ずしも「暑さ」を直接伝えるわけではありません。他に何があるか考えてみると、むしろ「無音」や「遠くの音」が効果的なんですね。音そのものに温度はないので、雑踏を入れれば「街」に意識がフォーカスされてしまうし、音楽を流せば感情やシチュエーションを考えてしまいます。だから暑さを感じさせたいなら音を減らすというのが効果的なんじゃないでしょうか。無音にして、遠くで子どもが遊ぶ声が聞こえると夏休みっぽいですし、暑すぎて誰もいない公園を無音で見せても夏っぽさを感じられるかもしれません。
あとは風鈴でしょうか。チリーンと鳴ると爽やかに感じますが、弱い音にして、その直後にキャラが「暑いな」と言えば、たまたま今風があっただけであって、風がろくに吹かないという暑さを強調できます。
こういった「暑さ」を表す記号を組み合わせて、アニメでは表現が作られているわけです。